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avreport's diary

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こんなカメラがほしい

CP+2018パネルディスカッションより

 CP+2018(パシフィコ横浜で2018年3月1日〜4日開催)の初日に開かれた恒例のステージイベント『上級エンジニアによるパネルディスカッション』(15:00〜16:30/会議センター)を遅くなりましたが紹介します。今年のテーマは『こんなカメラがほしい』でした。とてもワクワクするテーマでしたが、残念ながら期待はずれでした。最もガッカリしたのは、8人のパネリストのどなたからも『こんな写真が撮りたい』という夢が語られなかったことです。そして、当然のことながら、撮りたい写真のない人たちからは『こんなカメラが欲しい』という夢が語られるはずもなく、結局、なぜ、こんなカメラが欲しいのかという理由の説明や、欲しいカメラの新しい機能や新しいデザインの具体的な提示もまったくありませんでした。そればかりか、呆れたことに、壊れないカメラとか、何年経っても飽きのこないカメラとか、いつも連れ歩いて貰えるカメラとか、物として価値が感じられるカメラとか、言ってしまえば、当り前の、敵の目を欺くのが目的としか思えないような、おざなりな言葉しか聞くことができませんでした。多分、どのパネリストも特定のメーカーに所属しているという縛りがあって、自由な発言ができなかったのだと思いますが、もし、本気でこんな平凡な発想でカメラ市場を拡大できると考えているのだとしたら、日本のカメラ業界は絶望的だと思います。というわけで、できれば、来年のパネルディスカッションのテーマは『こんな写真が撮りたい。だから、こんなカメラがほしい』と、もう一捻りしたものにして、合わせてパネリストの顔ぶれもカメラメーカーのエンジニアではなく、20代、30代、40代、各世代男女各1人、計6人のプロカメラマンに登壇して頂き、メーカーエンジニアとはまた違った角度からのご意見をお聞きしてみたいと思います。なお、本稿はICレコーダーで録音したものを活字化したものなので、聴き取りにくいところや、意味が分りにくいところは、言い換えたり、短くしたり、省略したり、あるいは同じ言葉が無駄に繰り返されているところは削除したりという編集を施していますので、文責は編集部にあります。

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 パネルディスカッションの登壇者は写真(上)の8名、司会は日本カメラ博物館の市川泰憲氏と日本大学芸術学部写真学科教授の甲田謙一氏。

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 市川「今年のテーマは『こんなカメラがほしい』です。実は、毎年、テーマが電車の中吊りみたいになって、実態と中身が乖離していないかというご意見も一部にありましたので、今年は趣向を変えて、まずパネリストの皆さんに、ご自身で撮られた写真をお見せ頂き、簡単な自己紹介と、お見せ頂いた写真の撮影意図をお話し頂きます。それを通じて、パネリストのみなさんが、どんな方なのか知って頂ければと思います。それでは、オリンパスの片岡さんからお願いします」    

    片岡「これは『私の1枚を出せ』と言われて出した写真ですけど、最初から変化球みたいな球を投げて申し訳ありません。私は1991年にオリンパスに入り、それからずっとカメラのメカ設計と商品企画を担当し、いまは開発本部にいます。私の1枚は弊社のカメラに搭載されているアートフィルターという機能を使って撮った写真です。今日のテーマにもちょっと関連しますけど、銀塩時代のカメラはピントを合わせたり、露出を合わせたり、手振れに気をつけたりしないといけなかったので、ある意味、ちゃんと撮るのが難しかったわけですけど、カメラが、ドンドン、オート化され、色んな写真が撮れるようになったために、逆に、ちゃんと写真を撮るという楽しみがなくなってしまったような気がします。それは写真文化の衰退にも繋がるのではないかということで、我々が考えた救済策が色んな表現ができるアートフィルターです。つまり、アートフィルターをかけることによって、色々面白いことができますよという提案をしているわけです。私の1枚は花火大会の写真です。普通、花火大会の写真は爽やかな感じだとか、涼しげであるとか、そういうイメージですけど、アートフィルターをかけることによって、おどろおどろしいとうか、不安げというか、ちょっと普段とは違う表現ができたかなと思って、この1枚を選んでみました」

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 市川「私もドラマチックトーンなどは普通の写真を本格的な作品に化けさせることができるので、面白いなと思います。続きまして、キヤノンの竹下さん、お願いします。竹下さんは、元々、コンパクトカメラを担当されていましたが、いまはカメラ全体を見ておられます。この作品もコンパクトカメラでお撮りになったものだということです」

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 竹下「私はコンパクトカメラのメカ設計をずっとやってきましたが、いまは一眼レフを含めて全体を見る部署にいます。この写真はコンパクトで撮ったものです。去年、蔵王にスキーに行ったときに撮ったゲレンデの樹氷原です。ずっと曇っていたゲレンデが急に晴れてきたので、感動して撮ったものです。夕日が当たって、樹氷がオレンジ色に輝いています。滑りながら撮った1枚ですが、私は、普段から身体を動かすのが好きなので、私の特徴的な1枚になるかなと思って選びました。スキーのときは天気が良くても悪くても、一応、カメラは持って出ます。天気が悪いと撮らないことも多いんですけど、天気の良いときは、そこでしか撮れないような写真を撮りたいと思っていますので、気軽に持って出られる、小さなカメラの性能をあげていくことも永遠の課題だと思っています。この写真は単に綺麗な景色に感動して、あまり深く考えずに撮ったものですけど、こういった風景の写真は色を残しながら明るさを調節するのが難しので、本当はダイナミックレンジがもっと欲しいなと思いながら撮っていました」

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 市川「竹下さんの写真は普通のモニターで見ますと、もっと空が青くて、太陽も雲海も非常に綺麗に見えますけど、このモニターだと分りにくいかもしれません。続きまして、シグマの大曽根さんにお願いします。大曽根さんは、元々、機械設計を担当されていましたが、現在は商品企画部長として、カメラとレンズの全般を見ておられます」

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 大曽根「私は最初、メカ設計を担当していましたが、その後、メカの部長からレンズ開発全体の部長になり、現在は商品企画を担当しています。もっと簡単に、中学、高校、大学と、ずっと写真部でしたと言ったほうが、皆さんには分りやすいかもしれません。青春を暗室で過ごしたような人間ですけど、この写真は皆さんのような努力をして撮ったものではありません。山梨の清里の近くに家族でドライブしたときに、道からちょっと下りて、三脚を立ててパッと撮っただけのものです。sd QuattroのAPS-Cと35mmF1.4のセットで撮ったものです。このモニターでは、ちょっと分りにくいと思いますけど、木にピントが合って、背景はほんの僅かボケているという写真です。この写真を選んだのは、私が肉眼で見た風景と、ほぼほぼ同じように撮れたと感じられたからです。  

    今のカメラは高速連写とか、高感度とか、小型化とか、フイルムカメラの時代には考えられなかったような進歩を遂げて、ほぼほぼ、ゴールに近づいているような観があります。ただ、作品づくりとか、絵づくりとなると、もう少し追い込まないといけないように思います。例えば、FOVEONセンサーなら質感が撮れるとか、汚れが撮れると言えると思います。あるいは、被写体の隅から隅まで写してしまう、そういう解像度の高さが作品づくりに活かせるんじゃないかと思います。この写真もモニターで見た瞬間、この通りだったよなという、そういう感動があったので、選ばせてもらいました」

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 市川「なかなか難しい被写体ですね。私もレンズの色収差を見るときに、こういう被写体をよく撮ります」

 大曽根「レンズが最も苦手とする被写体です」

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 市川「続きまして、ソニーの中島さんにお願いします。中島さんは撮像素子がご専門ですが、一番最初のサイバーショットであるDSC-F1の開発から担当なさっていますので、デジタルカメラのキャリアは一番長いと思います」  中島「私のエンジニア時代の担当はイメージセンサーとその信号処理のLSIバイスでしたが、いまはマネージャーとして、カメラの開発全般を担当しています。下の写真は1996年頃にDSC-F1で撮ったスナップ写真ですが、大きくしなかったのは、妻にあとで羽交い締めにされると思ったからです。というのは冗談で、この時代は画素数VGA、640×480という小さな画素サイズの時代だったからです。上の大きな写真は一昨日発表したα7Ⅲです。画素サイズが6000×4000ですから、この20年間に約2桁の進化を遂げたわけです。感慨深く思って、この写真を載せました。実際には、妻との写真はもっとちっちゃいんですけど、これ以上小さくすると、何が写っているのか分らなくなっちゃうので、ある程度大きくしました。ちなみに、上の写真は私の妻ではありません(会場笑)」

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 市川「有り難うございました。確かに、VGAのプリントはマッチ箱より小さかったように思います。プリントの解像度は120dpiくらいでしたか。それに比べると、凄い進歩だと思います。続きまして、ニコンの村上さん、お願いします。村上さんは先日、タイに出張されたときに、寺院の写真をわざわざ撮り下ろしてくださったそうです」

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 村上「私もメカ設計の出身ですが、いまはD5とかD500といった一眼レフカメラの設計を担当しています。2週間ほど前、タイの工場に出張しましたので、そのときにD7500を持ち歩いて、街なかのスナップを撮ってきました。タイの工場は空港から北に80kmくらい行ったアユタヤという田舎町にあります。いつもは空港からアユタヤに直行して、缶詰にされ、仕事が終わり次第直帰の繰り返しですけど、今回はCP+に写真を出さないといけないということで、1日だけバンコクにも泊らせてもらいました。しかし、そのあとアユタヤでも写真を撮り、結局、アユタヤの写真をお見せすることになってしまいましたので、一体、何のためにバンコクに泊ったのか、ちょっと言い訳ができない状態になっています(笑)。アユタヤには寺院が幾つかありまして、夜7時くらいからライトアップされます。それを、ちょっと撮ってきたわけですけど、日本のライトアップより、だいぶ暗いものですから、この写真はシャッタースピードを1/3くらいに落とし、ISO感度を1600くらいにして撮っています。ついでに、スマホでも撮ってみましたけど、やはりスマホではちょっと厳しいと思いました。我々は作ったカメラを皆さんに、いつも連れ歩いてもらいたいと思っていますし、私自身も連れ歩きたい、というところがありますので、今回は自分でカメラを連れ歩いて撮ってきたアユタヤの雰囲気を皆さんに少しでもお伝えしたいということで、この写真を選ばせてもらいました」

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 市川「この寺院は手持ちですか。それとも、三脚をお使いになったんですか」

 村上「気軽に連れ歩こうということですので、三脚は持っていきません。それで、柵とかに置いて撮ったんですけど、蚊が沢山いて、腰を据えて撮れなかったというのが、ちょっと難点でした」

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 市川「続いて、パナソニックの森さん、お願いします。森さんはビデオカメラのソフトを最初は担当されていたということですけど、今回はラッシュアワーという高尚な写真を出して下さいました」

 森「大阪のビデオカメラ出身なので、大阪らしくて、私らしい写真をちょっと考えてみました。私は、元々、動画担当でしたので、光跡の写真が大好きです。動きを1枚の写真に表現できるからです。この写真は伊丹の有名な撮影スポットです。私が撮りました。夜8時です。シャッタースピードを60秒に設定しますと、一つの滑走路で離陸と着陸をほぼ同時に撮ることができます。そういうチャンスは1日に2回しかありませんので、よく撮れたなあと自分でも感心します。実は、この写真には先生のお手本があります。先生にこんな写真、私にも撮れますかとお聞きしましたら、撮れますよとおっしゃって、撮り方を教えてくださいました。伊丹へ行ったのは1週間ほど前ですけど、意外と撮れたので、時間と構図とカメラの設定をすべて教えて貰えば撮れるもんやなあというのを、今回、学習しました」

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 市川「大変素晴らしい写真を有り難うございます。これはフィルターとか、エフェクトをおかけになったんですか」

 森「かけていません」

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市川「続いて、富士フイルムの上野さん、お願いします。上野さんはフイルム時代から、ずっと写真をご自身でも撮られていますので、去年も上野さんだけ、作例を紹介しましたけど、今回の写真を見て、初めて、上野さんらしい写真が出たなあと私は思いました」

 上野「私はフイルム時代から、ずっと、定期的に作品を撮りに行っています。これは去年の夏、ちょっと時間があったので、友達のモデルさんに声をかけて撮ってきたものです。このときは、結構、気合いが入っていて、洋服も一緒に買いに行き、僕自身で洋服を選びました。時間帯や当日の天気は微妙だったんですけど、奥の太陽の真上にあるのが富士山です。夕方の逆光なので、広いダイナミックレンジが欲しいと思って、GFXとまだ発売前だった45mmのテスト品を持ち出して撮ってきました。写真の面白さ、特に人物写真の面白さは、物語りを組み立てるみたいに、絵コンテを描き、衣装を決め、物語りをずっと自分で支配できるところです。特にフイルム時代は打合せをして、洋服を買いに行って、撮影をしますから、モデルさんと3回遊べるわけですね。これもなかなか良いところです。さらに、現像があがったら、もう1回見せるね、というのもあったんですけど、デジタルになって、それがなくなっちゃいましたので、俺の1日を返せとい言いたくなりますけど、ま、しょうがないので、最近はデジタルで、こういう感じで撮っています」

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 市川「服まで一緒に買いに行っていたとは、知らなかったです(笑)」        

   上野「この娘とは、服の趣味があまり合わないので、服選びをこの娘に任せると、エッ、それ?となりますので、今回は買ってあげるから俺に選ばせろと言って選びました」

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 市川「続いて、リコーの小迫さん、お願いします。小迫さんはSmart Vision事業本部という、あまり聞き慣れない部署にいらっしゃいますけど、作例は『高感度性向上効果の確認』という非常に真面目なタイトルです。是非、この解説をお願いします」  

    小迫「締めにこんな写真で申し訳ありません。出だしのオリンパスの片岡さんが変化球でしたので、締めも変化球でいくことにしました。今回、自分の写真を1枚というご依頼がありましたが、思い返してみると、最近、自分の写真を撮っていないことに改めて気づきました。じゃあ、最近、何を撮っているのかと言いますと、製品の性能をちょっと確認したり、評価したり、そういう写真は一杯撮っていますので、じゃあ、そういうものを、一度、皆さんにも見て頂こうかなと思って、この写真を選びました。前置きが長くなりましたけど、この写真は、高感度性能を調べたものです。従来ですと、夜景めいたものは長秒で撮るのが普通でしたけど、高感度性能が上がってきますと、比較的速いシャッターで撮れるようになります。それを確認するために、噴水を撮ってみました。噴水というのは常に動きのある動体ですけど、噴水の位置は動かないという便利な被写体ですから、評価用にはもってこいです。あとは手前の噴水と奥の建物を絞り込んで撮ったときに、どのくらい深度が稼げるかという確認ができる写真も撮っています。それから、日比谷公園の噴水は日が暮れるとライトアップされますが、通る人が殆どいないので、色々、条件を変えて撮っていても、あまり皆さんの邪魔にならずに評価用の写真が撮れるという便利なポイントです」

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 市川「ということで、イントロで30分かかりましたけど、皆さんがどういう写真をお撮りになっているのか、私は非常に興味深く拝見致しました。さて、本題の『こんなカメラがほしい』に移りたいと思います。勿論、ユーザーが考える『こんなカメラ』と、作る側の『こんなカメラ』にはギャップがあると思いますけど、作る側のこんなカメラって、どんなカメラなのか、上野さん(富士フイルム)から、いかがですか」

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 上野「技術的には、もうこれ以上、付け加えるものはないと思います。冒頭でオリンパスの片岡さんがおっしゃっていましたけど、何でもできるようになっちゃうと、それを習得する楽しみとか、写真が巧くなったのを実感する楽しみが減っていくような気がしますので、今だからこそ、そういう楽しみを実感できるカメラとか、物として本当に価値のあるカメラが欲しいと思います」 

 市川「次に、今日、私と一緒にモデレーターをして頂く甲田先生にはユーザー代表として、CP+2018の会場をご覧になった感想をお話して頂きたいと思います」

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 甲田「今回は意外にと言ってはメーカーの方に失礼かもしれませんけど、新製品が少し少ないような気がします。ただ、改良はドンドン、進んでいるように思います。ここにもありますように、『スマホに負けないカメラ』だとか『インスタ映えする写真が撮れるカメラ』だとか、一般的に言うと、そういうカメラが『欲しいカメラ』の一つの目標になるかもしれませんけど、『小型で軽量のカメラ』として、フルサイズのミラーレスが、もっと沢山出てきても良かったんじゃないかと思います。実を言いますと、今年はそれがどちらかから(キヤノンニコンから)、間違いなく出てくるんじゃないかと期待していたのですが、ちょっと期待はずれでした。ソニーさんはアルファのミラーレスですでにフルサイズがありますけど、来年か再来年にはニコンさん、キヤノンさん、もしかするとペンタックスさんもフルサイズのミラーレスで揃い踏みということになるのではないかと思います。α7シリーズはご存知のように、いままでのAPS-Cサイズのカメラとほぼ同じか、それよりも小さいくらいの筐体のなかにフルサイズのメカニズムを収めています。フルサイズが、ライカ以来、廃れないで使われているのは、レンズの焦点距離だとか、ボケだとか、そういうものの都合が実に良いタイミングでできているからです。それで、今年はもう少しフルサイズに発展があるのではと、ちょっと期待をして、ちょっと期待外れだったわけです」

 市川「フルサイズのミラーレスはソニーさんだけでなく、各社から出てきても当然だろうと思います。例えば、Foveonのシグマさんのフルサイズミラーレスは、ユーザー自身も相当待っていると思います。そういうものを作ってみたいとか、大曽根さん(シグマ)、どうですか」

 大曽根「作ってはみたいですね。うちはセンサーまで全部、自前でやっているので、簡単に新しいサイズのセンサーを作れます、といわけにはいきませんけど、フルサイズのカメラはいつか作りたいと考えています。ただ、フイルムの一眼レフで痛感していたことですけど、フルサイズって、ちょっと大きすぎるなあという気もちょっとします。例えば、キヤノンのEOS Kissとかミノルタのα- Sweetはコンパクトで凄く可愛い、良いカメラでしたけど、フルサイズがまったく寄与してなくて、ファインダーに関しては殆ど、視野率が90%とか、そういう苦しいところを何とかやっていたように思います。フルサイズのミラーレスになって、それが無くなった反面、小型化が色々、トータルで難しくなっているのかなあ、というのも実感しています。私はスーパー35という映画のサイズも好きです。あのボケとか、あの世界はスチルの世界でも今後、主流になってもいいと思いますし、もうワンランク下の小さいフォーサーズも充分、力量があって、世界観があると思っていますので、このバリエーションが業界を広げていくんじゃないかと、そんなイメージを持っています」

 市川「確かに、フイルムの場合はフイルムの面積そのものが画質に影響するという考えでしたが、デジタルの場合は画素数に左右されると一般的には言われています。この点について、何かご意見がある方、手を挙げて下さい。じゃあ、中島さん(ソニー)、お願いします」

 中島「ソニーはフルサイズのミラーレスを出している唯一のメーカーですので、ここで話しておかないといけないかなと思いまして(笑)。昨年、α9という割とプロの方をターゲットとしたカメラを出しましたが、スポーツカメラマンの方に褒めて頂きました。焦点距離違いの2台を首からぶら下げて、現場を走り回っている方ですけど、小型軽量で良かったよと、もう歳をとって、最近、大変なんだ、これで僕のカメラマンとしての寿命が延びたよ、というような感想を述べて下さる方がいらっしゃいました。ソニーは性能が良ければ、小型軽量であることがプロの方にも一般のお客様にも非常に助けになると思っています。そして、小型軽量を出すのが非常に得意でもありますので、ここに注力して取り組んでいます」

 市川「α9は素人の方でも割と簡単に撮れますね。この写真は素人の方がまさにこのカメラで撮った写真です。買ったばかりで、嬉しくて撮ったものですが、こういう写真が一般の方にも撮れるようになるというのは楽しいことだと思います。サイズという意味じゃ、片岡さん(オリンパス)どうですか。フォーサーズという辺りで」

 片岡「これを堂々と話せるのはソニーさんだけだと思います。当然、私も銀塩の頃から写真を撮っていますので、レンズの焦点距離によって、このくらいボケるといったことは分りますけど、デジタルの時代になったら、そのバランスを変えてもいいんじゃないかというのが、オリンパスの考え方です。デジタル技術は進化していきますから、レンズの大きさやボディの大きさと画質のバランスはフイルム時代とは変ってくると思っています。昔は、良い写真を撮るには中判カメラでなきゃいけないと言っていましたけど、フイルム性能の向上によって、速写性のある一眼レフの方が良いというふうに時代が変っていったように、デジタル時代にも、そのバランスが変る余地があるんじゃないかと考えています。というと、何となく喧嘩を売ったような感じになるので、あまり言いたくなかったんですけど、一応、そういうことです」

 甲田「実は私が使った最初のカメラはハーフサイズのオリンパスPEN Fでした。感度は超低感度のISO25くらいでしたけど、それを使ってフルサイズに負けない画面を必死で作ろうとしていた頃のことが、いま蘇りました。オリンパスの片岡さんからもありましたように、小型の撮像素子には良いところが沢山あります。小型の撮像素子だからこそ撮れる写真があります。キヤノンの竹下さんも小型のカメラをもっと良くしたいと、おっしゃっていましたけど、センサーサイズが1インチくらいまでの小型カメラでないと撮れない写真が沢山あります。いまや、撮像素子が1インチでも2000万画素が当り前の時代ですから、プロのカメラマンでも被写界深度を稼ぐために、小型の撮像素子を使ったカメラを使うことがありますし、逆に大型の撮像素子のカメラを使うことによって写真の内容を変えるというような使い分けができるのが、いまのデジタルの時代じゃないかと思います」

 市川「確かにそうですね。私が使っているカメラもフルサイズとコンパクトズームの2種類ですけど、最近はコンパクトズームの代りにスマホを使うことが多くなってきたので、スマホに負けないコンパクトズームを是非作って欲しいなと思っています。私は仕事柄、物撮りや、カメラの姿写真を撮るのに、コンパクトカメラを使っていますけど、こんな便利なものはありません。昔は本格的なライティングが必要でしたけど、いまはもう自然光でシャッターを押すだけです。ブレなきゃ、綺麗に撮れます。これはやはりデジタルの魅力だと思いますけど、スマホに縄張りを荒らされないような、ちゃんとした何かがコンパクトカメラにもあったらいいなと思っています。如何でしょう。竹下さん(キヤノン)どうですか」

 竹下「スマホは本当に進化して、非常に綺麗な写真が撮れるようになったなあと思います。ただ、光の具合とか、アングルとか、色んなシーンに対応しようとすると、ポテンシャルとしては、やはりコンパクトカメラの方が上かなと思います。そういうポテンシャルを秘めたまま、コンパクトカメラをどう小さくしていくかが一つの課題だと思っていますが、うちの二人の娘は、私がコンパクトカメラで撮っていると、私もコンパクトカメラが欲しいと言ってくれます。娘達はスマホでは満足できないことを実感しているのだと、私は信じて日々やっております」

 市川「つい最近の、とある新聞によりますと、インスタグラムに投稿されるスマホの写真が増えるにつれて、デジカメが復調してきたとのことです。これが正しいかどうかは別にして、スマホじゃ、やっぱり満足できない、というような考えも出てきているような気もします。どうですか。どなたか、ございませんか」

 小迫(リコー)「アノー、折角、映して頂いたので・・・」  

 市川「何ですか(笑)」

 小迫「私たちのTHETA Vによって、デジカメが復調してきたかのような誤解を与えているんじゃないかと・・・(笑)。たまには、新聞も有り難い記事を書いてくれるんだと思ったわけです。私どもは中判カメラからコンパクトデジカメまで、フォーマットサイズが最も多様なメーカーですけど、どれが一番良いフォーマットかという議論はしていません。いま、皆さんがおっしゃられたように、切口によって、良いところと、悪いところが出てきますので、結局、どういう被写体を撮りたいか、あるいは、どのような表現で撮りたいかというところで、道具を選んで使って頂くのが、メーカーとしては一番有り難いと思っています。例えば、645をずっと使って頂いているお客さんも、スマホをちゃんと使われていますので、使い分けをして頂きたいと思います」

 市川「いかにも、小迫さんらしい、真面目なお話で有り難うございます」 

 上野(富士フイルム)「インスタ映えが、最近、凄く話題になりますけど、求めるクオリティがインスタ映え程度だったら、コンパクトカメラは要らないと思います。スマホはドンドン良くなりますから、カメラを作る人はもっと上を目指すべきだと思います。いまでは、スマホでもバックをボカすことができますし、色だって変えられます。ですから、何か、もうちょっとカメラって、高いところを目指すべきじゃないのかと思います。例えば、それを所有すること自体に価値がある、というふうにしたいと我々は思っています」  

 市川「質をとるか、量をとるかみたいな感じですね」

 上野「トータルの質、プロダクトとしての質を目指すべきだと思います。勿論、画質もそうですけど、そこだけを目標にしていると、やっぱり駄目だと思います。最終的にはクリエイティブなものですから」

 市川「甲田先生から質問だそうです」

 甲田「小型の撮像素子の場合、画素数だけ上げていきますと、一般的なレンズの組立精度からいって、レンズの方が負けてしまって、ローパスフィルターを入れられないような状態になっ ていますけど、画素数を2000万画素くらいにしたとき、最低どのくらいの撮像素子の大きさがあったら2000万画素が生きるんだろうと、前から思っていました。例えば1/2.7インチになっちゃうと、ちょっときついかなと僕は思っているんですけど、その辺のところで、どなたかお答え頂ければ・・・」  

 大曽根(シグマ)「一応、レンズメーカーも兼ねていますので、少しお話しますが、光の原理で言えば、焦点距離が短くなれば、その分、純粋に解像度が上がりますので、フルサイズの2000万画素も、例えば2/3インチの2000万画素も等しく対応できると考えています。スケーリングという概念で、焦点距離が半分になると、解像度は2倍になるという基本的な原理がありますので、対応はできると思っていますけど、先ほどおっしゃられたように、物の精度というものが、ある程度、足を引っ張っぱることになると思います。ただ、この物の精度についても、別に人間が全部組む必要はありませんので、1インチからその上くらいのものであれば、大抵は収められるんじゃないかと思っています。それより小さくなっても、ま、そこそこ行けるというイメージも持っています。ただ、小さいセンサーですと、レンズにお金がかけられないので、結局、ローパスは要らないみたいな、安いレンズになってしまうのが実情だと思います」

 甲田「以前、大雑把な計算をしてみたんですけど、顕微鏡用のレンズくらいの組立精度がないと、単レンズでも、そう簡単に解像度は出なと思いました。それで量産でズームを作るのは難しいんだなと思っていました」

 大曽根(シグマ)「あまりお金をかけられない場合は、あくまでも私のイメージですけど、1インチから上は欲しいと思います。それ以外は本当に、技術の粋を尽して、小さいセンサーに合った小さいレンズを作っていくしかないと思います」

 市川「コンパクトカメラには1/1.7インチとか1/2.7インチとか、そういうサイズから1インチ、さらにはフルサイズまでありますけど、カメラ業界がセンサーサイズの大型化にしのぎを削っているうちに、他業界から出てきたスマホのような小さな撮像素子を使ったカメラにコンパクトカメラの市場を荒らされてしまったような感じがします。小さい撮像素子のコンパクトカメラの将来性はどうなんでしょう。竹下さん(キヤノン)、いかがですか」

 竹下「私どもは、去年、APS-Cのコンパクトカメラも出しましたけど、やっぱり、良い画が撮れるのは大きい方で、スマホとの差も出しやすいわけですけど、コンパクトカメラと言って頂けるサイズをキープしようとすると、撮像素子をあまり大きくするわけにはいきません。各社さん、例えば、50倍ズームのコンパクトカメラを出されていますけど、そういうカメラは撮像素子のインチ数を上げちゃったら、もう馬鹿でかくて、コンパクトカメラとは言ってもらえない領域に行ってしまいますので、コンパクトカメラはやっぱりコンパクトと言ってもらえる程度のなかで、撮像素子とかレンズとかのバランスをとるのが、課題だと思ってます」  

 市川「高倍率ズームのコンパクトカメラを使うようになってから、新しい分野の写真が簡単に撮れるようになったというので、散歩のときはいつも持って歩くという方が沢山いらっしゃいます。ですから、やっぱり、カメラは凄く大事だと思うんですけど、如何でしょう、中島さん(ソニー)」

 中島「フルフレームで600mmとかにすると、とんでもなく大きくなりますけど、これを1インチとか、小さなサイズにしますと、600mm相当にしても、手持ちで狙いを定められるようになります」

 市川「この鳥の写真(スクリーンに投影された作例)は従来ですと、ネイチャーフォトグラファーか、経験を積んだプロのカメラマンしか撮れなかった領域の写真だと思いますけど、最近はアマチュアが気軽に散歩しながらでも、ピッピッと撮れるようになリました。コンパクトカメラが進化したおかげだと思いますけど、何か素晴らしいなと思います。この写真はニコンで撮られたものじゃないですか。村上さん(ニコン)、如何でしょう」

 村上「うちの1インチのカメラで撮ったものだと思います。システムが極端に小さくて、とても持ち歩きやすいカメラなので、うちの社内でも、こういった鳥の写真を撮っている人が結構います。1インチは、やっぱり、持ち歩きやすくて、振り回しやすいと、皆さん、おっしゃいますので、確かに使いやすいインチサイズだと思います」

 市川「この写真(スクリーンに投影された作例)はアマチュアの方が先日お撮りになった皆既月食の写真です。左側の写真はフルサイズの何とか6という一眼レフで撮った写真で、右側は何とか900で撮った写真だと思いますが、アマチュアの方が天体とか、小鳥とか、そういう領域の撮影に興味を持つようになったのは、プロにもアマチュアにも使える良いカメラが出てきたからだと思います。それから、SNSではアマチュアの方がボケ味の綺麗な写真を沢山投稿しています。これは日本だけかと思っていましたら、ドイツとか、その他海外でも同じような傾向が見られます。SNSに綺麗な写真を投稿している人たちは、画像処理でちょっと色をいじっただけだと、おっしゃっていますけど、このCP+でも、SNSで目立つようになってきたボケ味の綺麗な写真を意識したレンズが幾つか出ているような気がします。如何ですか」

 大曽根(シグマ)「うちからも出ています。105mmのF1.4というレンズですけど、ボケマスター(BOKEH-MASTER)という、非常にストライクな名前をつけさせて頂きました。やはり、ボケの大きなレンズが欲しいという方が増えているということです。海外ではボケという概念があまり伝わらなくて、逆に絞って使う方が多かったんですけど、皆さん、ご存知のように、最近、ボケとかボカとか言って、美しいボケを楽しむ方が増えています。ただ、美しいボケを出すには幾つか条件があります。特に私が心がけているのは、ボケていないところの解像度は高くすることと、ボケがレモン型になる口径食をなるべく減らすことです。ただ、今度の105mmはフィルター径も105mmと大きくなっちゃいました」

 市川「焦点距離を長くするのも一つですね。メイヤー(オプティック・ゴルリッツ)のTrioplanみたいに、100mmとか50mmとか」

 大曽根(シグマ)「ただ、意外と知られていないことですけど、焦点距離が長くて、口径が大きくて、ボケが大きいと、ときには殆ど絵にならないことがあります。ですから、マイクロフォーサーズの30mmとか50mmくらいのマクロで撮った方が、ボケがちゃんとした円になって美しいことがあります。なので、ボケは大鑑巨砲主義もOKだし、小さいボケも可愛いし、要は被写体との会話の仕方だと思います」

 市川「自撮りも、最近、流行っていますけど、自撮りがしやすいコンパクトカメラが森さん(パナソニック)のところになかったですか」

 森「4K PHOTOの機能の一つとして、自撮りやセルフィーで一番良いショットが選べる便利なカメラがあります。セルフィーモードは特に女性に人気のある機能なので、一番下のラインナップではメインで訴求していますけど、日本だけでなくて、中国とか東南アジアでも非常によく売れています」  

    市川「そろそろ、ソフトフォーカスレンズなども、新しいバリエーションとして出してもいいような気がしますけど、甲田先生どうですか」

 甲田「もうすでに、柔らかい写真の作例は卵系の雑誌やSNSに沢山載っています。また、収差の大きい古いレンズのボケが綺麗だとか、このレンズは癖玉だから、かえって良いんだとか、オールドレンズの紹介誌も沢山出ています。勿論、オールドレンズを上手に使いこなすのは結構難しいことですけど、昨年はソニーさんから新しいソフトフォーカスのレンズが出ました。なかなか綺麗な描写ができるレンズなので感心しましたけど、やはり随分と口径を稼いで、苦労なさってるように感じました。その辺、如何でしょうか」

 中島(ソニー)「確かに昨年はアポダイゼーションフィルターという、ちょっと特殊なフィルターを搭載したGマスターレンズを発表しました。コニカのアルファ時代からの伝統を活かして作ったレンズですけど、中心部の透明度が高く、周辺部が段々暗くなるというフィルターを搭載していますので、ハッキリとしたボケは出ませんけど、とろけるような感じが出ます」

 市川「ソフトフォーカスは電気的にもつくれますか。片岡さん(オリンパス)、如何ですか」

 片岡「つくれます。アートフィルターのなかにあるファンタジックフォーカスという機能がソフトフォーカスに相当するものですけど、当然、元の画が良くないと、綺麗なソフトフォーカスにはなりませんし、我々自身もボケを電気的につくればいいと思っているわけではありません。弊社はボケが綺麗な1.2のレンズを3本出していますけど、あれは過去に名玉と言われたレンズの収差をちゃんと測定し、どういう収差を出すと、どういうボケになるかということをきちんと検証したうえで作ったものです。一方、電気的なボケは不自然なボケになりますので避けたいわけですけど、ソフトフォーカスは電気的なものでも、ある程度の効果は出せると思っています」

 市川「電気的にピントを合わせたり、ずらしたりすることができるわけですね」  

 片岡「できます。特にソフトフォーカスの場合は全体をなだらかに消していく画像処理ですから、割と簡単にできます。一方、大口径のボケは無理矢理作ろうとすると、本当に解像が高いところと低いところの差が激しいので、不自然な絵になりますけど、ソフトフォーカスの場合はその山が低いので、電子的な補正でも割と綺麗にできるわけです」

 甲田「富士フイルムさんも、確か、アポダイゼーションフィルターを使っていらっしゃいますね」

 上野(富士フイルム)「56mmの1.2で使っています。当社はAPS-Cなので、被写界深度がフルサイズよりも1段強、深くなりますので、大きなボケをつくりたいときは、やはりアポダイゼーションフィルターが必要になります。つまり、ボケのエッジを削ったり、逆にセンターえぐりを入れて周辺の光束を切ったりして滲ませるわけですけど、正直、我々が想定したよりもコストがかかって、値段が高くなりました。ただ、想定よりも凄い数が売れましたので、やっぱりボケに拘りを持っている方が凄く多いのだと思います。特に日本はそうだと思います」

 中島(ソニー)「上野さんがおっしゃいましたように、ボケは日本人の文化に合っているのだと思います。先ほどご説明しましたアポダイゼーションフィルターを搭載したレンズが売れているのは圧倒的に日本ですから」

 市川「海外でボケの意味が理解されるようになったのは、ここ10年くらいだと思います。ですから、それ以前はBOKEと書いて検索しても、説明が出てこなかったわけですけど、最近はBOKEHと書けば出てきます。ところで、ボケと正反対のシャープな写真とか、質感豊かな写真はどうするのかというご意見も頂きたいのですが、如何ですか、中島さん(ソニー)」  

 中島「シャープで質感豊な写真を撮るには解像度の高いイメージセンサーを使うのが基本です。そして、撮るときにブラさないことも必要です。ですから、当然、手振れの補正機能も必要です。それから、質感はピントが合っている部分とボケている部分のコントラストによって生まれるものですが、そのコントラストを滑らかに表現できるセンサーとレンズの最適な組合せも必要です。ただ、画素数があまり増えますと、ノイズが増えて、これまた質感を損ねますので、バランスの良いセルサイズと画素サイズで撮影する必要があると思います」

 市川「もう一つ、最近凄く気になっているのは音を発しないカメラです。演奏会でも普通に撮れるカメラが出てきたわけですけど、それを技術の進歩と言っていいのでしょうか。甲田先生、どうでしょう」

 甲田「うちの学校(日大)には音楽学科がありますので、クラシックの演奏会を撮ってくれという依頼がよくあります。私はもう歳なので撮りませんけど、以前はカメラを布でグルグル巻きにしたり、4×5のカメラを持って行って、レンズシャッターの周りだけグルグルに巻いて撮ったりしていました。そうしないと、クラシックの撮影は許可して貰えないくらい厳しかったわけです。私はα7RⅡを買ったとき、サイレントシャッターなるものが入っていて、とても感動しました。言うまでもなく、音がしないからです。特に、連写のときに音がしないのは良いことだと思います。ただ、シャッターを切った気がしないので、その辺が非常に難しいところだと思います」

 市川「オリンパスさんのカメラも全然音がしないのでビックリしますけど、D850なんかも一眼レフのくせにサイレントモードがありますね。使ってみたら、ちゃんと音がしない。当り前ですけど、要はミラーレスになっちゃうわけですね。如何がですか、村上さん(ニコン)」

 村上「D850は、先ほど紹介して頂いた通り、サイレントモードが入っています。自分で使ってみると、音がしない気持ちの悪さを実感できますけど、ただ、使える領域が増えると思いますので、こういった機能はドンドン入れていくべきだと思います」

 片岡(オリンパス)「サイレントモードを入れたときに一番反応があったのは舞台の写真家協会の方でした。クラシックの演奏会などは基本的にビデオの持込みは可ですけど、カメラの持込みは禁止です。しかし、サイレントモードが入ったカメラなら良いよと言われました。いままで撮れなかったものが撮れるようになったわけです。勿論、写真を撮るときに音がした方が いいのか、しない方がいいのかという話になると、また色々あると思いますけど、少なくとも、写真のフィールドが広がったという意味では価値があると思っています」  

 市川「サイレントモードは確かに素晴らしい技術だと思います。最後に逆回りで小迫さん(リコー)から、こんなカメラが欲しいというお言葉をお願いします」

 小迫「基本的には良いものを作ろうと思っています。いままで、高感度とか、高解像度とか、綺麗なボケとか、写真のクオリティに関するお話が主でしたけど、もう一つ、使い勝手とか操作性を良くするというスタンスも必要だと思います。スマホとカメラの大きな違いはシャッターチャンスを逃さずに撮れるかどうかの違いだと思います。スマホはまだ残念ながらシャッターを押しにくいと思います。お手軽さの方を優先した形になってますので、一眼レフなどのカメラはもっと使いやすくしないといけないと思います」

 市川「次に上野さん(富士フイルム)、お願いします」

 上野「すべて、カメラ任せみたいなカメラは作りたくないと思いますけど、一つだけ、オートで視度調整ができるファインダーは欲しいなと、ちょっと思います。それ以外では、外装にお金をかけた、豪勢感のあるボディのカメラを作りたいという気持ちは凄くあります」

 市川「いわゆるカメラらしいカメラですね」

 上野「そうです。ちゃんと使えるカメラって感じです」

 市川「次に森さん(パナソニック)、お願いします」

 森「私は出身がビデオだというお話をしましたけど、カメラに移ったときに、何が一番大切ですかと訊ねましたら、壊れないことやと言われました。カメラは撮りたいときに必ずシャッターが切れないといけませんので、私はいまも、そう思っています。寒い所、熱い所、ま、落としても壊れないというのは、さすがに言いにくいんですけど、どんな条件下でも必ず動くカメラを目指したいと思っています。あとは、先ほど上野さん(富士フイルム)がインスタ映え程度で満足してたらあかんよと、おっしゃっていましたけど、私もそう思っています。それから、最近、写真を印刷したり、大きく伸したりしたときに感じることですけど、人を感動させるのは解像度だけでなく、色も大事だと思うようになりました」

 市川「次に村上さん(ニコン)、お願いします」

 村上「私はNew FM2という機械式のカメラをずっと担当していましたので、好きなのはやっぱりメカが動くカメラです。ですから、フイルム給送系、ミラー駆動系、シャッターのチャージ系をどういうレイアウトにするかとか、モーターを幾つ使うかとか、こういうことを考えるのが凄く好きだったわけですけど、フイルム給送系がなくなり、次いでミラーがなくなりと、段々、私の仕事がなくなって、寂しい思いをしています(笑)。しかし、ミラーレスにもちゃんと対応していかなきゃと思っています。また、合わせて、ミラー付きのカメラにおいても、ちゃんと空気感を切り取ることができ、常に連れて歩いて貰えるようなカメラの提案もしていきたいと思っていますし、自分でもそういうカメラが欲しいと思っています」

 市川「次に中島さん(ソニー)、お願いします」

 中島「自撮りできるカメラのセッションのときに話したくて、マイクも持って、ジーッと市川さんの顔を見ていたんですけど、スルーされて凄く残念でした(笑)。なぜ、そこで話したかったかと言いますと、私を紹介するときに使って頂いた写真がDSC-F1で自撮りした写真だったからです。元々、DSC-F1はレンズとイメージャーを回転させて、自撮りができるようにしたカメラですけど、フイルム時代は回転なんて発想がありませんでしたから、デジタル時代になったことをデザインで体現しようとしたカメラでもあったわけです。当時、カシオさんのQVデジタルも同じことをおやりになっていましたので、やはりデジタルにかける意気込みが凄かったのだろと思います。当時、自撮りはそれほど注目されなかったんですけど、 VGAのDSC-F1を最新の技術で再現したら、どんなものになるだろうというのは、20年前に担当した一人のエンジニアの夢として持っています。スマートフォンの自撮りは腕が写っちゃいますので、どこかに置いておけば自撮りができるというカメラの方が便利だと思います。タイマーで自動的に連写してくれれば、それが一番便利かもしれません。スマートフォンは回転機構を持っていないので、表と裏にそれぞれにイメージャー持っていますけど、自立はしないので、自立させられるデジタルカメラがもしかしたら一番良い自撮りカメラになるんじゃないかと勝手な想像をしています。今回のお題でいうと、あの時代のDSC-F1というサイバーショットを最新の技術で再び蘇らせたら、というのが私の夢です」

 市川「気づかず申し訳けございませんでした(笑)。じゃあ、大曽根さん(シグマ)、割と時間が押してきましたので、手短にお願いします(笑)」  

   大曽根「皆さんを完全に敵に回しちゃうかもしれませんけど、写真を撮る人間としては、モデルチェンジがあまりなくて、日本で作られているカメラが欲しいというのが、偽らざる本音です。私はカメラのレンズを開発していますので、通常は技術の人たちとばかり話をしていますけど、最近は海外の人とか、販売関係の人と話すことがあります。そうすると、ごく一部ですけど、凄く怖い人たちがいます。何て言うんでしょうか、小豆相場師みたいな感じで、ものの品質はどうでもいい、とにかく、この焦点距離のものを何本くれ、カメラはこれでいいと、そういう人がいらっしゃいますので、日本製のというと極端ですけど、個性があって、つくった人の顔が分る、そんなカメラが、凄く抽象的な話ですけど、もしかしたら『こんなカメラがほしい』というのに当てはまるのではないかと思います」

 市川「じゃあ、竹下さん(キヤノン)、お願いします」

 竹下「カメラの機能はドンドン進んでいますけど、もっと進化して、被写体の認識からシャッターチャンスの認識まで、みんなカメラ任せというカメラができてもいいんじゃないかと思います。今日の話の殆どは自分で撮ることを前提にしていたように思いますけど、私自身も子供が幼稚園とか小学生のときに参加したイベントは、いつも撮影に追われて、イベント自体を楽しめなかったという記憶があります。これは私だけでなく、お子さんを持っている人たちはみんな同じようなことを言っています。ですから、カメラをどこかにポッと置いておけば、あとは全部自動で撮ってくれるというカメラも作れるようになるんじゃないかと思っています」

 市川「監視カメラとか、ロボットの目とか、別の意味でキヤノンさんらしいと思います。じゃあ、最後に片岡さん(オリンパス)お願いします。その前に写真を1枚お見せします。オリンパスのブースにあったカメラ(古いカメラをアート作品に変身させたようなカメラ)ですけど、これは片岡さんが欲しいから作ったんじゃなくて、デザイナーさんが作ったものですか」

 片岡「そうです。写真文化とか、カメラ文化のあるべき姿を自分ならではの形で表現するとこうなるというテーマで、デザイナーが実験的につくったものです。私の夢は『一生持ち歩いてもらえるカメラ』を作ることです。勿論、古いカメラでは撮れないシーンが出てくると思いますけど、でも、このカメラだけはどうしても手放したくないというような、時代が移り変わっても使われ続けるようなカメラを作りたいものだと思いつつ、まだ果たせないで、この仕事を続けています」

 市川「素晴らしいと思います。それでは、甲田先生、最後にお願いします」  

 甲田「今日、リコーのブースを拝見して、久しぶりに凄いなと思いました。新製品のK-1Ⅱの機能を古いK-1のなかにほぼそのまま移植できるという発表があったからです。先ほどお話した長く使えるカメラを作りたいという夢は、デジタル技術の進歩のスピードを考えると、一番難しい夢になるかもしれませんけど、K-1K-1Ⅱに化け、K-1ユーザーがK-1Ⅱに乗り換える必要がないということになれば、K-1も長く使えるカメラの一つと言えるかもしれません」

 市川「確かに、私の周りのK-1ユーザーは改造費5万円は安いと喜んでいました」  

   小迫(リコー)「宣伝して頂いて有り難うございます(笑)」            

                                 ★  

【投稿日(posted date)】2018年6月16日(June 16th 2018)

【投稿者(poster)】エイブイレポート社・avreport's diary・編集長:吉岡伸敏・副編集長:吉岡眞里子(AV REPORT Co.,Ltd.・avreport's diary・Chief Editor:Nobutoshi Yoshioka・Assistan Editor-in-Chief:Mariko Yoshioka) 

 

                

 

 

 

 

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高画素カメラの解像度比較 < 第2弾>

 「高画素カメラの解像度比較」シリーズの第2弾として、2017年4月以降に発売された2000万画素以上のレンズ交換式デジタルカメラ全18機種のうち11機種の解像度をチェックしてみました。ちなみに、18機種のうち10機種はミラーレス、8機種は一眼レフ、チェックした11機種のうち8機種はミラーレス、3機種は一眼レフ。今回の解像度チェックに使ったチャートもシリーズ第1弾と同様、細かな描写力があるかどうかが分るApplied Image Inc製のモノクロ解像度チャートとRGBの正確な識別能力があるかどうかが分る、つまり、形状を正確に認識できる能力があるかどうかが分るカラー解像度チャート(電塾の阿部充夫さんが1999年に開発)の2種類です。この2種類の解像度チャートがどんなものかが分る写真や説明は前回の「高画素カメラの解像度比較」を参考になさって下さい。

 2017年4月以降に発売された2000万画素以上のレンズ交換式デジタルカメラ全18機種をメーカー別に見ると、キヤノンが一番多くて8機種、次いで富士フイルム3機種、ニコン2機種、ソニー2機種、パナソニック2機種、リコー1機種で、1強5弱と言った感じです。ちなみに、オリンパスは2017年9月にE-M10 MarkⅢ(1605万画素)、2018年3月にE-PL9(1605万画素)を出していますが、いずれも2000万画素以下の機種なので、チェックの対象から外れます。また、シグマは2016年12月にsd Quattro Hを出しましたが、以後、1年以上経っても、まだ新しいカメラを出していません。

 今回の解像度チェックの対象になったのは次の11機種です。富士フイルムX-H1(2430万画素/ミラーレス)、同X-E3(2430万画素/ミラーレス)、同X-A5(2424万画素/ミラーレス)、キヤノンEOS Kiss M (2410万画素/ミラーレス)、同Eos Kiss X90(2410万画素/一眼レフ)、ソニーα 7 Mark Ⅲ(2420万画素/ミラーレス)、同α 7R Mark Ⅲ(4240万画素/ミラーレス)、パナソニックG9 PRO(2033万画素/ミラーレス)、同GX7 Mark Ⅲ(2030万画素/ミラーレス)、ニコンD7500(2088万画素/一眼レフ)、ペンタックスK-1 Mark Ⅱ(3640万画素/一眼レフ)の11機種。

 2017年4月以降発売で、かつ2000万画以上という条件を満たす機種は他にも7機種あるわけですが、そのうちの4機種、ニコンD850(4575万画素/一眼レフ)、キヤノンEOS 6D Mark Ⅱ(2620万画素/一眼レフ)、同EOS M6(2420万画素/ミラーレス)、同EOS M100(2420万画素/ミラーレス)の解像度チェックの結果は今年1月に発表した「高画素カメラの解像度比較」の第1弾で紹介済みなので、今回はチェックの対象から外しました。また、この4機種の他に、キヤノンEOS 9000 D(2420万画素/一眼レフ)、同EOS Kiss X9 i(2420万画素/一眼レフ)、同EOS Kiss X9(2420万画素/一眼レフ)の3機種も2017年4月以降の発売、2000万画素以上という条件を満たしていますが、いずれもエントリーモデルなので、今回の解像度チェックでは最新型のエントリーモデルであるEOS Kiss X90(2410万画素/一眼レフ)のみを代表機種としてチェックの対象にしました。

 チェックの結果ですが、予想通り、及第点をあげてもいいかなと思われたのは富士フイルムのX-H1とX-E3の2機種だけでしたが、キヤノンのEOS Kiss Mの解像度も案外良く、というより、従来のハイエンドEOSと比べても遥かに解像度が高いので、とても驚きました。勿論、X-Trans CMOS Ⅲセンサーを搭載した富士フイルムのXシリーズやFoveon X3センサーを搭載したシグマのsd Quattro(2950万画素/一眼レフ)やsd Quattro H(3860万画素/一眼レフ)に比べると、まだまだ、大人と子供くらいの差がありますが、さらなる改善は今後の機種に期待したいと思います。

 今回のチェックではマルチショットで解像度を上げる撮影モードの効果もチェックしました。ペンタックスK-1 Mark Ⅱのリアル・レゾリューション・システムⅡとパナソニックG9 PROのハイレゾモードのチェックですが、いずれも、非常に解像度の高い写真が撮れます。しかし、残念ながら三脚を使わないと撮れませんし、ワンショットでも解像度の高い写真が撮れるX-Trans CMOS ⅢセンサーやFoveon X3センサー搭載のカメラで撮った写真に比べると、やはり不自然さが気になります。

 ペンタックスK-1MarkⅡのリアル・レゾリューション・システムⅡは手ブレ防止モードを併用することによって手持ちでも解像度の高い写真が撮れるようになりましたので、とても感心しましたが、4枚の画像を合成しないといけませんから25秒ほど待たないと、次のシャッターを切ることができません。ですから、あまり実用的ではないかもしれません。

 以下に解像度チャートの撮影結果を画素数の多い順に紹介します。

ソニーα7R Mark Ⅲ

フルサイズミラーレス、4240万画素、2017年11月25日発売、333,454円

使用レンズ:Distagon T*FE 35mm F1.4 ZA

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PENTAX K-1 Mark Ⅱ

フルサイズ一眼レフ、3640万画素、2018年4月20日発売、223,394円

使用レンズ:smc PENTAX FA 31mm F1.8 AL Limited

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PENTAX K-1 Mark Ⅱ

Real Resolutionモード(マルチショットの高解像度モードで撮影)。通常モードに比べると、見違えるくらい解像度が高くなる。

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富士フイルム X-H1

APS-Cミラーレス、2430万画素、2018年3月1日発売、213,533円

使用レンズ:XF 23mm F2 R WR

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富士フイルム X-E3

APS-Cミラーレス、2430万画素、2017年9月28日発売、74,980円

使用レンズ:XF 23mm F2 R WR

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富士フイルム X-A5

APS-Cミラーレス、2424万画素、2018年2月15日発売、61,572円

使用レンズ:XF 23mm F2 R WR

X-Trans CMOS Ⅲセンサーを搭載していないので、解像度は高くない。

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ソニーα7 Mark Ⅲ

フルサイズミラーレス、2420万画素、2018年3月23日発売、223,123円

使用レンズ:Distagon T*FE35mm F1.4 ZA

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キヤノン EOS Kiss X 90

APS-C一眼レフ、2410万画素、2018年3月29日発売、51,900円

使用レンズ:EF-S 18-55 IS Ⅱ

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キヤノン EOS Kiss M

APS-Cミラーレス、2410万画素、2018年3月23日発売、62,152円

使用レンズ:EF-M 15-45mm F3.5-6.3 IS STM

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ニコン D7500

APS-C一眼レフ、2088万画素、2017年6月9日発売、107,780円

使用レンズ:AF-S NIKKOR 16-80mm F2.8-4 E ED

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パナソニック GX7 Mark Ⅲ

マイクロ4/3ミラーレス、2030万画素、2018年3月15日発売、84,310円

使用レンズ:SUMMILUX 15mm  F1.7 ASPH

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パナソニック G9 PRO

マイクロ4/3ミラーレス、2033万画素、2018年1月25日発売、164,690円

使用レンズ:VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0

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 パナソニック G9 PRO

ハイレゾモード(マルチショットの高解像度モードで撮影)。通常モードに比べると、かなり解像度が高くなるが、綺麗ではない。

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 G9 PROのハイレゾモードは画素数を最高値の半分くらいに抑えて撮った方が綺麗に撮れる。

(エイブイレポート社 avreport’s diary編集長 吉岡伸敏/2018年5月13日投稿)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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WELCOME TO  AV REPORT WEB

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高画素カメラの解像度比較

 久しぶりに新しいカメラの解像度をチェックしてみた。 一昨年、2016年の12月に月刊AVレポートを休刊にして以来初めてのチェックだ。今回チェックした機種はニコンD850(4575万画素)、キヤノンEOS 6D Mark Ⅱ(2620万画素)、同EOS M6(2420万画素)、同EOS M100(2420万画素)の4機種。チェックに使った解像度チャートはApplied Image Inc製のモノクロ解像度チェック用チャート、QA-77と電塾・運営委員の阿部充夫さん(長岡造形大学教授)が1999年に開発したカラー解像度チャートの2種類。以下に紹介するのは解像度チェックの結果だが、今回チェックした4機種の他に、中判のFUJIFILM GFX 50SやPENTAX 645Z、あるいは有力メーカーのハイエンドカメラなど、過去にチェックした14機種も加えて、計18機種のチェック結果を紹介した。18機種のうちソニーのα7R Mark ⅡとパナソニックのGX8、ライカのSLはちょっと古い機種だが、3社とも解像度にはあまりこだわらないメーカーなので、かりに最新機種をチェックしたとしても、あまり大きな進化は見られないはずだ。今回のチェックに使った画像データのフォーマットはfnacの研究所にならって、すべてJPEG。撮影したISO感度は100、1600、3200の3種類だがチェックに使ったのはISO100のみ。カメラの解像度はレンズの絞り値によって大きく変化するが、F5.6が最適絞りになるカメラが比較的多かったので、数機種の例外を除いて、原則、F5.6で撮影した画像でチェックした。なお、モノクロ解像度チャートのQA-77は私が購入した当時で8万円くらいしたが、電塾チャートは電塾のホームページ(http://denjuku.org/old/index.htm)から無料でダウンロードできるので、カメラの販売店は、是非、義務として、カラー解像度くらいは、ご自身でチェックして、お客さんにその結果を教えてあげるべきだろ。なぜなら、どんどん高額化している最近のカメラは買った後で後悔しても、そう簡単に買い替えるわけにいかないからだ。もちろん、解像度など気にする必要はないとおっしゃる向きもあるだろう。1年ほど前に偶然会った某カメラマンは「3次元の被写体を撮るのに、なぜ2次元のチャートを気にする必要があるんだ」と、おかしなことをいうので、こいつはアホかと思ったが、彼はれっきとした日本写真協会の会員なので、この団体もいずれ信用を失うことになるだろう。が、実をいうと、私自身もプロカメラマンではないので、それほど解像度にはこだわっていない。私が最も重視しているのは解像度よりも電池の寿命とコストパフォーマンスとコンパクトさだ。というわけで、最近は電池1個で820枚撮れるニコンD5500にタムロンの16-300mmとNIKKORの10-20mmをつけて使っているが、レンズ交換が面倒なので、D3400も買い足そうと思っている。このカメラは電池1本で何と1200枚も撮れるからだ。ちなみに、D5500もD3400も2416万画素しかないが、3000万画素を超えるカメラは手持ち撮影が難しいので、私の選択肢には多分、永久に入ってこないだろう。もちろん、D5500の解像度は以下に紹介する高画素カメラに比べると、あまり高くないが、我慢できないほど低くはない。以下、解像度チェックの結果は画素数の高い順番に紹介するが、その前に、まず、チャートの紹介から。

モノクロ解像度チャート QA-77

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<写真上>はQA-77の全体写真、<写真下>は全体写真のほぼ中央部にある縦長と横長のくさび状ストライプゾーンの拡大写真。今回のチェックに使ったのは12、16、20、24、28、32、36、40の数字が入っている右側の縦長ストライプ。40の位置のストライプがはっきり写れば4000本/200mm、つまり20本/mmの解像度があることになる。最近はこの40を軽くクリアするカメラが何機種も登場しているが、逆に高画素カメラのなかにも、解像度があまり高くないカメラもあるので、そんなカメラはどんな事情があろうとも、決してお客さんに奨めてはならない。販売店の責任は重大だ。

電塾カラー解像度チャート

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 <写真上>は電塾チャートの全体写真、<写真下>はその最上部中央の赤枠で囲った部分の拡大写真。今回の解像度チェックに使った部分だが、この拡大写真の通りに写るカメラは滅多にない。言うまでもなく、同心円やストライプがちゃんと写るカメラは色再現性が良く、逆に同心円が十字形になったり、ストライプが格子状になったり、消えてしまったりするカメラは色再現の悪いカメラだ。ご存知の通り、現在店頭に並んでいるカメラの殆どは、いわゆるBAYER配列の3色分解フィルターを乗せたイメージセンサーを使っているので、残念ながら、ほぼ100%、ストライプや同心円が綺麗に写ることはない。画素数が5000万画素超の富士フイルムのGFX 50SやPENTAX 645Z、EOS 5DSRもその例外ではなく、同心円もストライプもちゃんと写らない。ご存知の通り、BAYER配列の3色分解フィルターはRGBの3原色で構成されるが、RGB各1個、計3個のフィルターで構成されるわけではなく、R1個、G2個、B1個、つまRGGB、計4個のフイルターで構成されるので、画像入力はRGGBという形になるわけだが、RGGBの形のまま出力すると、当然、不自然な色の写真になってしまうので、出力するときはRGGBをRGBに変換する処理が必要だ。しかし、この処理が難しい。カメラの画素数が1000万画素くらいだった数年前まではこの変換処理が得意なメーカーが2社ほどあったが、画素数が2000万画素を超えるようになってからは、得意なメーカーが1社も無くなってしまった。画像処理プロセッサーの能力が高画素化のスピードに追いつけなくなってしまったからだろう。今回チェックした18機種のうち、シグマのsd Quattro Hと富士フイルムのX-T2だけは例外的に同心円やストライプが綺麗に写っているが、言うまでもなく、両機種ともBAYERタイプのイメージセンサーを使っていないからだ。

PENTAX 645 Z 

5140万画素、563,685円(価格ドットコム)、2014年6月27日発売

レンズ:smc PENTAX-D FA645 55mm F2.8 AL[IF] SDM AW、絞り:F10

 キャッチフレーズ:驚愕の解像度と豊かな階調。真の高画質とはこういうことだ。

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FUJIFILM GFX 50S  

5140万画素、697,800円(価格ドットコム)、2017年2月28日発売

レンズ:GF 63mm F2.8 R WR、絞り:F10

キャッチフレーズ:世界最高レベルの「写真画質」に到達した。

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EOS 5DSR 

5060万画素、381,580円(価格ドットコム)、2015年6月18日発売

レンズ:EF 24-70mm f/2.8L Ⅱ USM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:圧倒的な高解像度を実現するデジタル一眼レフカメラ

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 ニコンD850

4575万画素、359,640円(価格ドットコム)、2017年9月8日発売

レンズ:AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8 G ED、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:4575万画素の真価。その高画質はジャンルを超越する。

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 ソニーα7R Mark Ⅱ

4240万画素、259,261円(価格ドットコム)、2015年8月7日発売

レンズ:Vario Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:高解像度、高感度、高速レスポンスを実現した新開発35mmフルサイズセンサー。

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シグマ sd Quattro H 

3860万画素、109,850円(価格ドットコム)、2016年12月20日発売

レンズ:35mm F1.4 DG HSM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:唯一無二の画質。

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 PENTAX K-1 

3640万画素、204,454円(価格ドットコム)、2016年4月28日発売

レンズ:D FA MACRO 50mm F2.8、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:大フォーマットだから生み出せる、卓越した描写。

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EOS 5D Mark Ⅳ

3040万画素、288,778円(価格ドットコム)、2016年9月8日発売

レンズ:EF 24-70mm f/4L IS USM、絞り:F5.6

 キャッチフレーズ:空気感、臨場感まで描写する、約3040万画素フルサイズCMOSセンサー

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 EOS 6D Mark Ⅱ

2620万画素、173,324円(価格ドットコム)、2017年8月4日発売

レンズ:EF 24-70mm f/4L IS USM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:フルサイズセンサー搭載による高画質、高感度と世界最軽量を実現した一眼レフカメラ

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 FUJIFILM X-T2 

2430万画素、129,399円(価格ドットコム)、2016年9月8日発売

レンズ:XF 35mm F1.4 R、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:FUJIFILM X-T2が可能にする、無限の撮影領域。

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 EOS M6 

2420万画素、72,800円(価格ドットコム)、2017年4月20日発売

レンズ:EF-M 15-45mm f/3.5-6.3 IS USM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:高精度AFと高画質を両立。

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 EOS M100 

2420万画素、44,213円(価格ドットコム)、2017年10月5日発売

レンズ:EF-M 15-45mm f/3.5-6.3 IS USM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:美しさが格段に違う、約2420万画素の大型センサー。

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ニコンD5600 

2416万画素、72,650円(価格ドットコム)、2016年11月25日発売

レンズ:AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:圧倒的な高画質で、撮るものすべてが美しく感動的に。

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イカ SL

2400万画素、820,800円(価格ドットコム)、2015年5月下旬発売

レンズ:VARIO-ELMART 1:2.8-4.0/24-90mm ASPH. OIS、絞り:F5.6

キャチフレーズ:35mmフルサイズフォーマットの画質を堪能できます。

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ニコン D5 

2082万画素、557,908円(価格ドットコム)、2016年3月26日発売

レンズ:AF-S NIKKOR 35mm f/1.4 G、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:プロフェッショナルの撮影領域を拡大する次世代フラッグシップモデル。

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オリンパス E-M1 Mark Ⅱ 

2037万画素、180,779円(価格ドットコム)、2016年12月22日発売

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:高画質とハイレスポンスとを両立させた「OLYMPUS OM-D」シリーズのフラッグシップ機。

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LUMIX GX8

2030万画素、69,800円(価格ドットコム)、2015年8月20日発売

レンズ:LUMIX G VARIO PZ 14-42 F3.5-5.6、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:高画質20M Live MOSセンサー搭載によるるルミックス史上最高画質。

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EOS 1DX Mark Ⅱ 

2020万画素、549,800円(価格ドットコム)、2016年4月28日発売

レンズ:EF 24-70mm f/2.8L Ⅱ USM、絞り:F5.6

キャッチフレーズ:高画質と最高約14コマ/秒の高速連写を両立。

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 以上が解像度チェックの結果紹介だが、注目点は各機種のキャッチフレーズ。どこにも世界一とか世界初といった元気の良い大言壮語が見当たらない。平凡で、遠慮がちなフレーズばかりなので、カメラ業界の前途が心配。カメラの開発に携わっている人たちが、夢や開拓者精神を失ってしまったように感じられるからだ。唯一、パナソニックのGX8のキャッチフレーズが笑わせてくれるが、多分、あとで後悔したに違いない。せっかく「ルミックス史上最高画質」と元気の良いところを見せてくれたのに、画質があまりにもお粗末だということがばれてしまったからだ。(有限会社エイブイレポート社代表取締役 吉岡伸敏 2018年1月25日記)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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日仏両国のカメラショーが共同企画として新人写真家発掘のための写真コンテストを3年前から開いている。このコンテストの受賞者たちは何のために写真を撮っているのだろう。サロンドラフォト2017の会場で開かれた受賞者たちによるトークステージを聴いてきた。

 

  avreport’s diaryの第2号です。第1号では「写真は絶対にアートにならない」といった過激なことを書いたので、倍返しの反撃を覚悟していたが、知名度がないので、目下のところはセーフ。しかし「アートもどきの写真に何億円、何千万円の値段がつくのは異常」という指摘には、やや不満げなご意見も返ってきた。こうだ。「写真のアート市場は、ある意味、カオスで無秩序とも言えますが、ともあれ、やはりグルスキーが一番ですので、若者に限らず、誰しもグルスキーを目指している感じがします」というご意見だ。グルスキーって? 初めて聞く言葉だけど、写真の専門用語かな? すぐにネットで検索して、アンドレアス・グルスキー(Andreas Gursky/1955年1月15日生まれの62歳)というドイツ人写真家の名前だということが分かったが、キャリア数10年の写真業界紙誌記者たちに「グルスキーって、知ってる?」と聞いてみると、誰も知らなかった。要するに、日本のほとんどの写真業界関係者は写真機に興味はあっても、写真には興味がないということだろう。

 ところで、グルスキーだが「List of most expensive photographs(最も値段の高い写真作品のリスト)」に載っている25作品のなかに彼の作品が7点も入っているのだから、みんなの憧れの的になるのは当然だ。その7作品の値段をとりあえず紹介すると。第1位・434万ドル、第6位・335万ドル、第7位・330万ドル、第11位・290万ドル、第14位・251万ドル、第15位・242万ドル、第19位・193万ドル、第23位・163万ドル。7作品全てが億円単位で売れた作品だから、写真は立派なアートだと勘違いする人が出てきても、おかしくないかもしれない。

 ちなみに、この高額写真リストの第2位はRichard Prince(1949年8月6日米国生まれ)の作品(397万ドル)、第3位はCindy Sherman(1954年1月19日米国生まれ)の作品(389万ドル)。この2点の値段も、当然、億円単位だ。  

 では、写真よりはるかに長い歴史を歩いてきた絵画や彫刻の値段はどのくらいするのだろう。当然のことだが、写真の数十倍だ。まず、絵画のベスト3だが、第1位はポール・セザンヌ(Paul Cézanne)のThe Card Players(2億5000万ドル)、第2位はPablo PicassoのLa Rêve(The Dream/1億5500万ドル)、第3位はFrancis BaconのThree Studies of Lucian(1億4240万ドル)と、億円ではなく、百億円単位。だから、写真は格下というより論外。それをアートと呼ぶ人の神経が私には理解できないわけだ。もちろん、写真はコピーが何枚でも可能なので、グルスキーの写真も58枚コピーして売れば、セザンヌに並ぶわけだが、58枚もコピーしたら、商品価値はアッという間に暴落してしまうはずだ。

 次は彫刻の高額作品ベスト3。第1位はAlbert Giacomettiの L'Homme au doigt(1億4280万ドル)、第2位もAlbert Giacomettiの L'Homme qui marche1(1億1460万ドル)、第3位はAmedeo Modigliani のTête(6530万ドル)。絵画には及ばないが、写真と比べると、やはり桁違いだ。

 実は私の娘の一人もアーチストの端くれとして、「Tomotake」というブランドをつけたアートもどきの日用雑貨をつくっているが、「カメラはアートをつくるものではなく、アートを撮るものだ」と常々言っている。彼女も写真はアートでないと思っているわけだ。

 しかし、なぜか、写真をアートだと勘違いしている写真家が多いのも事実だ。このブログの第1号でも紹介したフランスのカメラショー「Le Salon de la Photo」と日本のカメラショー「CP+」の両ショーは、共同企画として、両国の新進写真家の発掘・支援・育成を目的とした写真コンテストを毎年実施して、それぞれのショーの会場で受賞作品の合同展示と受賞作家による合同トークショーを2016年から毎年行っているが、先月開かれたLe Salon de la Photo 2017の会場で行われた合同トークショーでも、フランス人受賞者の一人から写真をアートと勘違いしている発言があって、耳を疑った。  

 このトークショーに参加したのはフランス側の写真コンテスト「Les Zooms 2017」(2010年に創設)の受賞者、Rudy BoyerさんとCéline Jentzschさん、そして日本側の写真コンテスト「The Editors' Photo Award ZOOMS JAPAN 2017」の受賞者、山田憲子さんと片上久也さんの4人だが、フランス人の受賞者、Céline Jentzschさんが何の躊躇もなく、こんな発言をしたので呆れてしまったわけだ。 

 「以前、私は旅行会社で仕事をしていました。パイロットのスケジュールを管理する人事の仕事でしたが、あまり創造力は必要でなく、とにかくスピードが求められる仕事でしたので、やはり創造的、クリエイティブな仕事をしたいと、ずっと思っていました」

 写真の一体どこが創造的でクリエイティブなのだろうか。 なぜ、彼女はそのような勘違いをしてしまったのだろうか。 もちろん、写真がアートであろうが、なかろうが、そんなことを気にする人は現実にはあまりいないかもしれない。カメラメーカーもそんなことは全く気にしていないはずだ。好きなものを自由に撮ってくださいというのが、カメラメーカの基本姿勢だ。ただ、写真をアートだと勘違いするような鈍感な神経の持ち主に人を感動させる写真が撮れるのだろうか。

 言うまでもなく、どんな写真を撮ろうが、撮る人の自由だが、それを図々しく人様に見せていいかとなると、それは全く別の問題だ。特に、撮影意図が分からないアートもどきの写真を見せられたりすると、私としては困惑するしかないが、困ったことに、撮影意図を明確にすべきストリートスナップやドキュメンタリー写真のなかにも、どういう目的で撮ったのか、全く分からないものが沢山あるのはなぜだろう。

 先日、東京都写真美術館ユージン・スミスとウジェーヌ・アジェの写真展を見たが、ガッカリした。なぜなら、撮影意図が分からない写真がほとんどだったからだ。ご存知の通り、ユージン・スミスは写真史上もっとも偉大なドキュメンタリー写真家の一人と言われている写真家だ。また、ウジェーヌ・アジェは死後、近代写真の父と呼ばれるようになった、やはり偉大な写真家だ。だから、二人の写真には見る人に何かを伝えようとする明確な目的があったはずだが、時が経ち、時代を共有する人が少なくなるにつれ、コミュにケーションの手段であったはずの写真が何も語りかけることのない、単なる物や商品に変わってしまうようだ。

 特に呆れたのはユージン・スミスの写真展だ。写真のキャプションがあまりにもお粗末すぎたからだ。例えば、自動車が写っている写真のキャプションは「自動車」、猫が写っている写真は「猫」。本来なら、なぜ自動車を撮ったのか、なぜ猫を撮ったのかというキャプションを入れるべきだろう。東京都写真美術館のキュレーターたちは一体どういうキャリアの持ち主なのか、疑いたくなってしまったくらいだ。つまり、時代背景を知ろうとしないアホが書いたキャプションとしか思えなかったわけだ。

 以下はLe Salon de la Photo 2017の会場で行われたLes Zooms2017とZOOMS JAPAN 2017の受賞者その他による合同トークショーの紹介。受賞者たちは写真を、一体、何のために撮っているのだろ。写真で何を伝えたいのだろう。トークショーの時間が1時間と短かったからなのか、司会者の進行が下手だったからなのか、受賞者たちの言語能力が足りなかったからなのか、全く収穫のないトークショーだった。                                              ★

 司会者「サロンドラフォトは日仏の友好関係を深めるために、8年前からこのような写真のコンクールを開催しています(フランス側は8年前から独自に単独開催、日本側とのコラボ開催は3年前から)。今回、4名の入選者にお集まりいただきました。うち2名様はパブリック賞(ネットによる一般投票)、残りの2名様はプレス賞(日本ではエディター賞/カメラ雑誌の編集長が選考)を受賞なさいました。2年前からはCP+さんが関心を抱いてくださいまして、国際的なコンクールになっています。本日は4名の受賞者と、日本とフランスのジャーナリストもお迎えして、討論を行いたいと思います。まず、審査員長のVincent PEREZ(写真家)さんから、一言、お願いいたします」

 PEREZ審査員長「審査員をさせていただきまして、本当に光栄でございます。様々なアーチストの写真を選ぶのは非常に難しい仕事です。皆様、それぞれ大変素晴らし才能を持っていらっしゃいますので、そこから選ぶというのは、非常に難しい、大変な仕事だったわけですけど、ただ、様々な編集長の方々、プレスの方々と一緒にお仕事をさせていただきまして、本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。今回、4名様の受賞者、そして4名様のジャーナリストをお迎えしております。本当に有り難うございます。皆様は様々な個性を持った写真を撮っておられます。テーマは旅行ですとか、ストリート、景色、そして個人的なアート、様々な分野で写真を撮られていますので、様々なお話をお聞きできると思います」

 司会者「まず、Rudy Boyerさんの作品ですが、この作品はYann Garret(Réponses Photoの編集長)さんが推薦されています。Rudy Boyerさんはストリートの写真を撮ることに特化しています。うしろのスクリーンに写真が出ておりますが、ストリート写真は、現在、どんどん流行ってきていますので、このアーチストにとっても、一つの挑戦だったのではないでしょうか」

 Yann Garret編集長「確かに一つの挑戦でした。Rudyさんの写真は全てのものを一つに統合する力を持っています(エッ?どういうこと?)。アーチストによっては人道的なテーマで写真を撮ったり、形式的なテーマで写真を撮ったりしますけど、Rudyさんの写真は地方というものに力を入れて撮られているように感じます。地方といっても、高級住宅地のニースです。そして、自分が生まれ育った町をテーマに撮っておられます。私は故郷というテーマを取り扱ったRudyさんの写真を見て感動しました。彼の写真には真実性ですとか綺麗な心が反映されていると思います。人の顔の写真を撮ったりするのは、ある意味、アグレッシブな、ちょっとした暴力的なイメージがあるかもしれませんけど、Boyerさんの写真にはそれが一切ないのが特徴です」

 司会者「Boyerさんは、どのような気持ちで写真を撮られていますか。例えば、カメラマンが自分にカメラを向けていると、基本的に、ちょっと意識をしたりしますが、そのような状況に置かれたとき、Boyerさんはどのようにしていらっしゃいますか。影に隠れて写真を撮ったりすることもありますか」

 Boyer「カメラマンが透明人間になるのは不可能ですけど、人は基本的に自分のやっていることに夢中になっていますので、被写体が周囲のことを気にしているという状況はあまりないと思います。ですから、私が写真を撮っているときは、90%、透明人間になっているといっても過言ではありません。私の身長はそんなに高くもなく、低くもないですけど、周りの人たちが私に注意することは、あまりないと思います」

 司会者「次は月刊カメラマンの編集長の坂本直樹さんに、お伺いしたいと思います。今回、片上久也(かたがみひさや)さんの写真を紹介されていますけど、一言、この作品について、お話をしていただけますか」

 坂本編集長「片上さんの作品は写真愛好家の人たちの投票によって、圧倒的多数を得て、一等賞に輝いた作品です。日本でカメラ雑誌7誌の編集長が、みんな、これは一等賞にはならないだろうと思っていた作品だったのですが、一般のコンシューマーはこういった作品を好むようです。僕は雨傘というと、どうしても映画の”シェルブールの雨傘”を思い出してしまいますが、それとは全く対極にあるような、決してお洒落でない、でも非常に真面目に撮っている、こういう写真が読者に讃えられ、一般の写真愛好家にうけるというのは凄くよく理解できます」

 司会者「片上さんにお聞きします。まず、なぜテーマに傘を選ばれたのですか。確かに、日本人はお天気が良いときでも、日傘として傘をさしていて、西洋人は非常に驚きます。そういった傘に注目した理由をお聞かせいただけますでしょうか」

 片上「はじめまして。カタガミヒサヤと申します。普段からスナップ撮影をしていますが、そのなかで、日本らしさとは何かと考えたときに、まず傘が一つ思い浮かんだわけですけど、雨の日の空気とか湿度とかによって、ちょっと日本ぽい、日本画のようなイメージが出るんじゃないかと思って撮っています」

 司会者「Le Monde de la Photoの編集長のVincent Trujilloさんは、Céline Jentzschさんの作品を紹介されています。この作品には2万5000票の投票があったそうですけど、それについて、一言、お願いいたします」

 Vincent Trujillo「Céline さんは、沢山、旅行をされていますけど、モンゴルがとても気に入ったと感じています。Célineさんとお会いしたのは2〜3年前ですけど、彼女と会ったとき、彼女は非常に喜んで旅行の話をしてくれました。そして、写真も見せてくれたことをよく思い出します。旅行写真家というのは非常に難しい仕事だと思います。彼女の作品を見ると真実性が伝わってきますし、また、アーチストとして非常に完成していると思います。彼女はモノクロの写真を撮っていますので、最初に見たときは簡単そうに見えましたけど、非常に難しいだろうなと、いまは感じています」

 司会者「私からもJentzschさんに質問をさせていただきたいと思います。まず、モンゴルには何日滞在されたのですか。それから、モノクロ写真はどのような状況で撮られたのですか」

   Céline Jentzsch「モンゴルに滞在したのは15日間でしたけど、モンゴルは冬の場面が非常に美しいと思います。私がこの写真を撮ったのは2015年3月でしたけど、基本的には寒い時期でした。夏は非常に暖かいのですが、冬は一言でいうと、極限状態といっても過言ではありません。夜になると、マイナス30度、零下35度になったりしましたので、非常に厳しい状況でした。そして、トナカイのいる町まで行くのに車で数日間かかり、宿泊はトナカイを管理している人のところに宿泊するといったことでしたので、確かに大変な状況でした。 なぜモノクロが多くなったのかということですけど、私が写真を撮るときに気にしているのは、とにかく見たものを忠実に再現することです。今回、この冬の旅を撮影するにあたって、つましさですとか、清潔さ、寒さというものを表現したいという思いから、やはり、モノクロームで写したいと思いました」

 司会者「次に安藤菜穂子(PHaT PHOTO編集長)さんに伺いたいと思います。今回、プレス賞(CP+ではエディター賞)を受賞された山田憲子さんの写真を紹介していただきましたけど、一言いただけますか」

 安藤編集長「山田さんはまだ24歳の、大学を卒業して数年しか経っていない、とても若い写真家です。作品を最初に見たとき、完全にアートとしての作品の美しさに、とても惹かれました。その次に思ったことは、まるで海の底に咲いている草花や人のように、細かい気泡のようなものが無数に出ているので、まずこれが何を表現しているのだろうかということに、とても興味が湧きました。のちに彼女にこの作品について尋ねたところ、この作品は彼女が撮影当時にあまり関係がうまくいっていなかった母親のことを思い浮かべながらつくった作品だということを聞きました。この無数の穴は一つ一つ手で開けたものですが、プリントの下から光を当てることによって浮かび上がる小さい光のように見える手法をとっています。とても個人的な彼女の悩みや母親との関係を、とても斬新な方法で、こういったアート作品に表現するところにとても魅力を感じて、今回、エディター賞に選びました」

 司会者「山田憲子さんにお聞きしたいのですが、まず、どのようなことからプリントに穴を開けるというアイデアが浮かんだのですか。また、この穴が何を象徴しているのかにも興味があります」

 山田「私は志賀理江子さんという写真家がビジュアル的に凄く好きなので、どのような手法で作品を作っていらっしゃるのか調べてみました。そして、その方法の一つに穴を開けるというのがあったので、私も試してみました。それがきっかけです。この穴の光が表しているのは、単純に涙とか、呼吸とか、そういうものじゃなくて、人の命みたいなものが外気に発せられていくみたいなイメージです。それは母が泣いているときに見えたものですが、命がすり減っていくように見えた気がして、それを表しています」

 司会者「Yann Garret編集長に片上さんに対する質問をお願いしたいと思います」

 Yann Garret編集長「質問というよりも、ちょっとした私の個人的な意見ですけど、片上さんの写真を見ると、非常に感動します。写真から出てくる光ですとか、傘のモチーフというのは、気候だけではなく、時間を表しているようにも思います。それについては、どのようにお考えでしょうか」

 片上「質問が凄く難しいです。時間とかっていうのは、深く考えていません。傘が撮りたいわけではなくて、そこにある風景というか、そこにたまたま傘があるというのが、僕の撮り方の基本です」  司会者「広島県出身ということですけど、写真は広島を中心に撮られているのですか。もしくは日本全国で撮影されているのですか」  

 片上「基本は地元、広島ですけど、数枚は近県だったと思います」

 司会者「坂本編集長からCéline Jentzschさんの写真に対して何かコメントはありませんか」

 坂本「セリーヌにしろ、ルディーにしろ、凄く素敵な作品に出会えました。生のプリントを眼の前で見ることができて、12時間かけて東京から来た甲斐がありました。僕もセリーヌと同じように、外国を旅するのが大好きで、2週間前、30年ぶりにケニアのマサイ村にいました。そこで何が衝撃だったかというと、マサイ族の青年とメールアドレスの交換をしたことです。それで、セリーヌにお聞きしたいのですが、モンゴル、あるいはモンゴル以外の国でもいいです。凄く、衝撃的だったこと、インプレッシブだった出来事、思い出、そういったもの、何かございますか」

 Céline Jentzsch「私が感動したというか、驚いたことは、モンゴルの人たちが自然と一体となって生活していたことです。彼らが一体となっている自然との関係に非常に深く感動しました。我々、一般の人には考えられないことですけど、寒さ、極寒というのは彼らの日常となっています。そういった状況に順応しようとしている、いや、すでに順応しているという姿に非常に感動しました。そのような生活を改善しようとは考えないで、そのような生活を営んでいることに驚いています。モンゴルにおいては、冬と夏の温度差が非常に激しくて、先ほどの繰り返しになりますけど、冬ですとマイナス30度、マイナス40度、ときにはマイナス50度になりますし、また夏ですと非常に暑くなりまして、30度以上になることも度々あります。彼らの日常は年間を通してそのような厳しさのなかにあるということに非常に驚いております。彼らはある意味、放浪の旅をしていると言っても過言ではないわけですけど、彼らの姿を見ると、人間と自然が完全に融合しているというふうに感じます」

 坂本編集長「モンゴルも日本人も同じ人種、モンゴリアンですが、日本にも北海道という冬はとても寒くなる大地があります。次は是非、冬の北海道に来て、スキーをするのではなく、動物とか大地の撮影をしていただきたいと思います」

 Céline Jentzsch「有り難うございます。日本の北海道に行くのは私の一つの夢でもありますし、北海道の冬についても度々話を伺っています。北海道というと野生的なイメージもあり、ピュアなイメージもありますので、必ず日本の北海道を訪問したいと思っています。実際に来年2月に日本を訪問する予定ですので、時間をとって、是非、北海道へ行きたいと思っています」

 司会者「今回のLes ZOOMS 2017に入選した2名のフランス人が来年2月に日本を訪問する予定です。次にVincent Trojilloさんから山田憲子に一言質問をしていただければと思います」

 Vincent Trojillo編集長 「今回の写真は、お母様との非常に複雑な関係を反映しているということですが、この写真はお母様との関係の改善に役立ちましたか」

 山田「この作品によって、直接的にそうはならなかったのですが、自分を改善しなければならないという気持ちがありましたので、本当にそういうふうに動いていくキッカケにはなりました」

 司会者「今度は安藤編集長からRudy Boyerさんにご質問があればお願いします」

 安藤編集長「Rudy Boyerさんの作品は一目見て、とても素敵な、個人的に好きな作品だと思いました。構図や光と影のコントラストがとても魅力的だと思います。2つお伺いしたいのですが、撮影のときに何かご自身に課しているルールみたいなものはありますか。それと、もし影響を受けた写真家の方がいらっしゃいましたら教えて下さい」

 Rudy Boyer「有り難うございます。ルールは基本的にはありません。ただ、私が住んでいるニースは非常に太陽が多くて、非常にお天気も良くて、光が常にあるという場所です。また、ニースには小さい道が沢山ありまして、そういった小道がこの太陽の光によって、陰影をもたらせているように思います。光は私の生活の一部になっていますので、私が実際に生活している、その一部を写真に反映させたいと思っています。本当に単純に自分の見たものを撮影したいと思っています。その写真のなかに人間が含まれれば、なお良いとも考えています。従って、ルールは関係ないということです。 2点目のご質問ですけど、影響を受けたアーチストは沢山あって、数え切れません。200人くらいいますけれども、その数名を挙げると、Alex Webbさんであったり、××さんであったり、○○さんであったり、きりがありません」

 司会者「二人のフランス人の写真家にお聞きします。お二人とも、最初は普通のお仕事を持っていらっしゃいましたね。そのあとアーチストに転進されたわけですけど、どのようにしてお仕事を変えられたのかをお聞かせ願えればと思います」 

 Céline Jentzsch「サラリーマンからプロのカメラマンへは徐々に変えていきました。完全にプロになるのには1〜2年かかりました。以前、私は旅行会社でパイロットのスケジュールを管理する人事の仕事をしていました。非常に厳しい仕事でしたが、あまり創造力は必要でなく、とにかくスピードが求められる仕事でしたので、やはり創造的な、クリエイティブな仕事をしたいと、ずっと思っていました。私は昔、絵画を教えていたこともありますし、アクリルにもずっと携わっていました。ですから、ずっとアートには何らかの形で携わっていたわけですけど、ただ、自分の気持ちとしては、新しいことにチャレンジしたい、本当に自分の力を発揮していきたいという思いがありましたので、プロのカメラマンになることを決意しました。それまでには5年から10年という時間が必要でした」

 司会者「今度はRudy Boyerさんにお聞きします。今回の受賞をきっかけに、プロになることを考えていらっしゃいますか。また、今後、何を目指されるのか、一言、聞かせていただければと思います」

 Rudy Boyer「今後、プロとして仕事をしていくのかどうかは難しい質問です。私は現在、コンクリート分析研究所で仕事をしていますので、写真はあくまでも趣味の一つです。音楽も大好きで、音楽と写真は私にとっては趣味です。このストリートの写真を撮るのは、心から大好きなことで、ずっと続けていきたいと思いますけど、テーマを決めて、プロのカメラマンとしてやっていけるかというと、今の段階では、正直、そのようなことは考えていません。今後、条件とか環境が変われば、それなりに考えるかもしれませんけれども、現在は家族を持っていますし、子供が3人いますので、すぐには難しいと考えています」

 司会者「片上さんに質問ですけど、今回、パリにいらして、何か感じたことはありますでしょうか。例えば、フランスの傘というテーマで写真を撮りたくなったとか、パリに来て感じられたこと、ちょっとお聞かせいただければと思います」

 片上「まだ、パリに来て2日目ですけど、パリは今回で2回目です。明日、ちょっと天気が悪いみたいなので、本当にフランス人は傘をささないのか、ちょっと確認してみたいなと思います。パリにはあと暫くいますけど、傘の写真は引き続き、継続して続けていきたいと思っています。フランスで感じたことは日本に帰ってから出していきたいと思っています」     司会者「山田憲子さんへの質問ですけど、今回、フランスに滞在して、何か今後の作品に繋がるようなインスピレーションは得られましたか。また、何か新しいアイデアがひらめきましたか」

 山田「まだ、この会場にしか来ていませんので、明日、明後日、色んなところを見て回る予定です。私にとっては初めての海外なので、最初は凄く怖かったんですけど、写真展を見るだけで凄く何かアクティブになれましたので、明日、明後日が凄く楽しみです」

 司会「4名の受賞者の方、そしてジャーナリストの方、本日、この場にお越しいただきまして本当に有り難うございました。皆様のお声を一人一人お聞かせいただきまして、本当に光栄に思っています。誠におめでとうございます。本日は本当に有難うございました」(AVレポート社 代表取締役 吉岡伸敏 ・2017年12月29日記)

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新人写真家発掘のための写真コンテストの受賞者のトークイベントはサロンドラフォト2017の初日の午後4時から5時半まで行われた。

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サロンドラフォトのトークイベントには写真コンテストの受賞者だけでなく、審査にあたったカメラ雑誌の編集長たちも参加した。日本からは月刊カメラマンの坂本編集長とPHaT PHOTOの安藤編集長が参加。

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ニースのストリート写真で受賞したRudy Boyerさん(33歳)

f:id:avreport:20171229145830j:plainRudy Boyerさんの作品

f:id:avreport:20171229145938j:plain極寒のモンゴルの写真で受賞したCéline Jentzschさん

f:id:avreport:20171229150329j:plainCéline Jentzschさんの作品

f:id:avreport:20171229150429j:plainZOOMS JAPAN 2017でパブリック賞を受賞した片上久也さん

f:id:avreport:20171229150759j:plain片上久也さんは傘を素材にして日本らしさを撮った

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ZOOMS JAPAN 2017でエディター賞を受賞した山田憲子さん

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山田憲子さんはプリントに開けた無数の細かい穴に光を当て、命が消えていく様子を視覚化した

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日仏4名の受賞者の作品を並べた合同展示場は看板のサイズが小さいうえに吊り下げられた位置も高すぎて全然目立たず、ちょっと手抜き感があった

f:id:avreport:20171229152002j:plain6年前のLes Zooms 2011の受賞作品展示会場

f:id:avreport:20171229163032j:plain受賞者のトークイベント会場は空席ばかり。ほとんどが関係者だろう。

f:id:avreport:20171229163320j:plain上の写真と同じ会場だが、空席が全くない。チベットの写真で有名な写真家、オリヴィエ・フェルミさんのトークステージだが、このすぐ後の時間にセバスチャン・サルガドのステージがあったせいか、フェルミさんのトークが終わっても誰も席を立たなかった。それどころか、サルガドを一目でも見ようと、外から会場を覗き込む人も沢山いた。

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タルボットの写真も買える見本市に初めて行ってきた

パリフォト&フォトフィーバー報告

 パリで毎年11月に開かれている非常に有名な写真の展示即売会に初めて行ってきた。第21回「パリフォト(Paris Photo 2017)」と第6回「フォトフィーバー(fotofever paris 2017)」の二つだ。

 ★パリフォト=日程:11月9日〜12 日、会場:明治44年の第5回パリ万博のために建てられたグランパレ(Grand Palais)、出展ギャラリー・出版社・書店数:190社(31カ国)、予想入場者数:6万人。  

 ★フォトフィーバー=日程:11月10日〜12日、会場:ルーブル美術館に近いカルーゼル・デュ・ルーブル(Le Carrousel du Louvre)という地下のショッピングセンター、出展ギャラリー数:73社(19カ国)、予想入場者数:7万人、メインターゲットは写真収集の入門者たち。

 なぜ初めてだったのか。正直に白状すると、つい3年ほど前まで、このような展示即売会があることを全く知らなかったからだ。第6回フォトフィーバーは歴史があまりないので、知らない人も多いだろうが、パリフォトはもう21回目なので、私のように40年以上もカメラ業界誌の発行に携わってきた者なら、知らないほうが、むしろ、おかしいだろう。しかし、私の場合は、この2つの展示即売会はおろか、今年48回目を迎えた、あの有名な「アルル国際写真フェスティバル(Les Rencontres d’Arles)」(日程:7月3日〜9月24日、会場:アルル)や、今年29回目を迎えた報道写真フェスティバル「Visa pour l'image(ヴィザプーリマージュ)」(日程:9月2日〜17日、会場:ペルピニャン)もつい最近まで知らなかった。だから、面目ないが、当然、行ったことがない。

 というわけで、フランス人の前でも、日本人の前でも、写真の正しい見方だとか、写真はこうあるべきだとか、そんな偉そうな口はきけないわけだが、上記のような有名な写真イベントの存在を知らなかったことを、実を言うと、私自身はあまり恥ずかしいとは思っていない。  

 なぜなら、私にとっての写真とは、説明文がついておらず、従って撮影意図がよく分からない写真ではなく、少なくとも2〜3行、できれば読みきれないくらいの説明文がついている写真だけだと思っているからだ。もちろん、このような理想的な写真が展示されている写真展に出会ったことはまだ一度もないが、文章で何かを伝えることを職業にしてきた人たちはみんな私と同じ考えを持っているはずだ。

 だから、色んなところから写真展の案内を頂いても、ワクワクなど全くせず、また、パリフォトやフォトフィーバーを見逃していたからといって、あまり残念とも、恥ずかしいとも思わなかったわけだ。

 ただ、何のキャプションもついていない写真の前で釘づけになり、立ち尽くしてしまった経験が一度だけだが、あった。それは、今年10回目を迎えたフランス最大の写真機材展「ル・サロン・ドゥ・ラ・フォト(Le Salon de la Photo)」(今年の日程:11月9日〜13日、会場:モンパルナスから地下鉄12号線で10分くらいのポルト・ドゥ・ベルサイユ(Porte de Versailles)駅のすぐ近くにある 見本市会場”Paris Expo”)に6年前の2011年11月に初めて行ったときだった。  

 この展示会は日本のCP+やフォトキナとあまりにも違ったので、今も強烈な印象が残っている。それは展示会場のなかに機材メーカーのブースだけでなく、数多くの写真団体のブースも同時に並び、プロ写真家たちの叫び声が聞こえてくるような感動的な写真、あるいは国家や企業や社会の間違った姿に警鐘を鳴らすような、メッセージ性の非常に高い写真が沢山展示されていたからだ。それで、心底、感心し、また、羨ましくも思ったわけだが、多分、日本のCP+が同じようなスタイルの展示会になることは、100年経ってもないだろう。日本に優秀な写真家と同時に優秀な写真鑑賞者が育つ日がそう簡単にくるとは思えないからだ。

 特に、パリフォトにやってくるお客さんたちの多様性を見て思ったことだが、写真文化はつけ焼き刃的な学校教育ではなく、日常生活のなかで育つものだと痛感したからだ。パリフォトを見て特に驚いたのは、よちよち歩きの子供を連れた家族を何組も見かけたことだ。また、会場で見かけるお客さんは、若い人もお年寄りも、ほとんどが夫婦か恋人だ。逆に翻って、日本の写真展はどうだろう。子供の姿を見かけることはまずなく、お客さんの大半は関係者か義理堅い大人たちだけだ。だから、日本では家庭や職場、学校、カフェ、レストランなどで日常的に写真が話題になることはまずないはずだ。  

 ところで、私が2011年のル・サロン・ドゥ・ラ・フォトで釘づけになったのは、どんな写真だったかというと、幼い兄と妹が肩を寄せ合って、窓の外を虚ろな目でぼんやりと見つめている写真だった。もちろん、現物を見ていただかないと、ピンとこないと思うが、このようなメッセージ性の高い写真に出会ったのは、後にも先にも、このときだけだ。ということは、日本のカメラショーや、米国のPMAショー、ドイツのフォトキナ、また北京のChina P&Eやソウルのフォト&イメージングショーでも出会ったことがなかったということだ。

 しかし、今年のル・サロン・ドゥ・ラ・フォトにはガッカリした。6年前に感じられた魅力がすっかり失われていたからだ。展示会場のなかに写真団体のブースを沢山並べる設営スタイルは今年も踏襲されていたが、そこに展示されていたプロ写真家たちの写真は呆れるほど質が落ちており、叫び声のようなメッセージが聞こえなくなっていたからだ。6年前と一番大きく違っていたのは、プリントサイズが極端に小さくなり、格調の高さがなくなっていたことだ。そして、展示されていた写真から聞こえてきたのは、見る人の心に響く、真面目な叫び声ではなく、不愉快な叫び声ばかりだった。平和や正義や愛を訴える叫び声ではなく、写真を屋台のバナナと同じような感覚で叩き売っているような叫び声ばかりだった。

 ご推察の通り、私が今回パリフォトやフォトフィーバーを見に行ったのは、6年前のル・サロン・ドゥ・ラ・フォトで出会った写真に感動したからであり、また、写真に特化したショーなら、機材中心のショーよりも質の高い写真に沢山出会えると思ったからだ。しかし、期待は完全に裏切られた。もちろん、どちらのショーも素晴らしいと絶賛するむきも、きっと、あると思うが、文章ないし音声による解説のついた写真しか理解できない私にとっては、どちらのショーも退屈でしかたがなく、せっかくの展示即売会なのに、購買意欲など、もちろん湧かなかった。だから、来年の取材をどうしようか、いま迷っているところだが、もう一度か二度くらいは行って、写真が秘めた力や可能性を確かめてみたいという気持ちはまだ持っている。   

 なぜなら、写真には間違いなく、社会を動かす力があると思うからだ。2015年のカメラグランプリの表彰式でのことだが、TIPAの代表として挨拶したPiX Magazine社(南アフリカ)の女性編集者、ルイーズ・ドナルド(Louise Donald)さんは「写真が自分たちの国の歴史に深い役割を果たしてきたことを痛感しています」と前置きして、写真が秘める力の大きさを、こう語っている。  

 「1976年6月、ソウェト (Soweto)蜂起の光景を写し出した1枚の写真が南アフリカ史において、極めて重要な1日を記すものになりました。動かぬ証拠を示す写真の力が、声なきものに声を与えたのです。政府当局による画像や文字の厳しい情報統制のなかで、たった1枚の写真が真実を物語ったのです。写真メディアの力は絶大で、多くの写真を通じ、南アフリカにおけるアパルトヘイトの暗い真実が世界の人の目に晒され、この地に変化をもたらす、きっかけとなりました(以下省略)」

 この1枚の写真とは「ソウェト蜂起」のとき、警察官に撃たれて死にかけている少年を両腕に抱えて泣きながら走ってくる年長の少年と、その二人に付き添って、やはり泣きながら走ってくる、死にかけている少年の姉の3人が写っている写真だが、この写真にしても、説明を読んだり、聞いたりしないと、いったい何を訴えようとしている写真なのか、絶対に分からないはずだ。  

 先日、東京ミッドタウンのフジフイルムスクエアで60点に及ぶアンセル・アダムス(Ansel Easton AdamsⅡ/1902〜1984)の貴重な写真を見てきたが、残念ながら、どの写真からも写真家の叫び声のようなものは聞こえてこなかった。8×10という巨大なカメラを重たい三脚に載せ、苦労して撮ったものばかりのようだが、なにせ、ほとんどが誰でも撮れそうな風景写真なので、叫び声など聞こえるはずがないわけだ。この偉大な写真家は常日頃から、写真に説明は必要ないと言い切っていたそうだが、それは当然だ。これは富士山やペット、野鳥、昆虫、草花、女性のヌード写真に説明が要らないのと同じことだ。  

 ところが、何のメッセージも伝わってこないアンセル・アダムスの風景写真が何億円とか、何千万円で売られているというから、耳を疑ってしまうが、写真の見方には色々あるということだろう。私は仕事柄、展示会のブースとか、記者会見、インタビューの写真くらいしか撮ったことがないが、逆に、写真を骨董品か、投資対象、美術工芸品と同じような感覚で見ている人もいるということだろう。

 パリフォトやフォトフィーバーに展示されている写真もほとんどがアートもどきの写真だ。だから、退屈なこと極まりなく、そんな偽物のアートを見る暇があったら、ルーブルや、オルセーや、オランジェリーに行ったほうが、よほど有意義だと教えてあげたいくらいだが、写真と称されるものに、アートもどきの写真が多いのは、アートが好きな写真家が多いからではなく、本物では勝負できないので、仕方なく、偽物の世界に逃げこむしかなかった写真家が多いということではないだろうか。写真とアートの違いは、見ているうちに飽きてしまうか、いつまで見ていても飽きないかの違いだ。  

 もちろん、パリフォトやフォトフィーバーの主催者たちは写真家たちのことをアーチストだと、おだて上げている。パリフォトの主催者に至っては、この展示即売会を「世界有数の写真のアートフェア」だとさえ言っている。その上、箔をつけるためか、作品カタログの表2に続く見開きページの片面をフルに使って、「マクロン大統領ご公認」のお墨付きまで載せている。それで、写真家たちも自分たちのことをアーチストだと錯覚してしまうのかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。なぜなら、写真は絶対にアートにならないからだ。

 言うまでもなく、アートは創造されたものだが、アートもどきの写真は創造ではなく、加工されたものにすぎないからだ。だから、高度なデジタル処理技術を駆使してつくられたアートのような写真も、偽物を本物のアートに見えるように加工したものにすぎないということだ。

 アーチストもどきの写真家のなかには、コンピュータ処理でなく、プリントを折り曲げたり、切り裂いたり、カッターナイフで傷つけたりしてアートだと、こじつけている厚かましい写真家がいたり、あるいは、写真を自分では1枚も撮らずに、ネットから他人の写真を何枚もダウンロードして、それを重ね合わせ、全く別物に作り変えてアートだと言っている不届きな偽アーチストもいて呆れてしまうが、彼らの偽アート写真が2000ユーロとか、3000ユーロで堂々と売られているのを見ていると腹が立ってくるくらいだ。多分、珍品やゲテモノのコレクターたちもパリフォトやフォトフィーバーにやってくるのだろう。  

 これは私の独断と偏見かもしれないが、言論の自由が規制されている国、あるいは表面上は規制されていないのに、保身のために自発的に自己規制してしまう国の写真はアートもどきの写真ばかりだ。これは中国、韓国、日本に共通する傾向だが、これらの国では、これからもずっと「見ざる、言わざる、聞かざる」のDNAに縛られたアートもどきの写真ばかりを見せられて、ウンザリさせられるに違いない。

 ただ、パリフォトやフォトフィーバーを一度でも見た人は、写真はこうあるべきだと決めつけてはいけない、と思うようになるはずだ。特にパリフォトでは、販売されている写真家の数が3389人と、あまりにも多いので、写真は百人百様であるのが、むしろ当然であり、従って、他人の目を気にせず、何でも自由に撮ればいいと思うようになるはずだ。  

 今年の春、澁谷の文化村でロベール・ドアノーの孫娘が監督したドキュメンタリー映画「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー(永遠の3秒)」を見たが、 映画のなかのインタビューで孫娘がおじいちゃんに対して、こんな質問をしている。「写真で一番大事なのは何?」 。さて、何と答えたでしょう。答えは「ピントだよ」。思わず、笑ってしまったが、つまり、どんな写真であろうと、ピントが合ってさえいればいい、ということになるわけだが、確かに、昔の重たい、マニュアルフォーカスの、ピントがなかなか合わないカメラを使ってみると実感する返答だ。  

 今年は創立100年のニコンミュージアムでデビッド・ダグラス・ダンカン(David Douglas Duncan/1916〜)が愛用していたニコンFにも触ってみたが、カメラとレンズが重く、そして、もちろん、AF機でもないので、やはりピントがなかなか合わなかった。だから、ダンカンのようなプロカメラマンには絶対になれないと思ったくらいだが、しかし、今はもう、みんなが自称カメラマンだ。

 言うまでもなく、これはカメラのAF化とデジタル化のおかげだが、逆にもし、まだマニュアルフォーカスの時代が続いているとしたら、自称カメラマンが巷にあふれることはなく、従って、偽アーチストたちが、我が物顔でのさばる、何でもありの時代にもならなかっただろう。  

 もちろん、何でもありが悪いと言っているわけではない。言うまでもなく、パリフォトも何でもありの見本市だが、何でもありとは、決して玉石混交という意味ではなく、懐が深い、あるいは広いという意味だ。それは、パリフォトの作品カタログを見ると、よく分かるだろう。

 何しろ、写真史に残る偉大な写真家たちの名前が、いくらでも出てくるからだ。残念ながら、ダゲレオタイプのダゲール(Louis Jacques Mandé Daguerre/1787~1851)やニエプス(Joseph Nicéphore Niépce/1765~1833)の名前は載っていないが、世界初の写真集「自然の鉛筆(The Pencil of Nature)」で有名なヘンリー・フォックス・タルボット(Wiliam Henry Fox Talbot/1800~1877)や、近代写真の父と呼ばれているアルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz/1864~1946)、あるいはタルボットより早くカロタイプの開発に成功したのに、発明者としての手柄をタルボットに横取りされてしまったイポリット・バヤール(Hippolyte Bayard/1800~1887)の名前まで載っているので脱帽するしかないが、実はカタログをよく見ると、超有名なのに、名前が載っていない写真家も案外多いことに気づくはずだ。だから、ちょっと片手落ちの観もあるので、パリフォトは必ずしも何でもありのショーではないわけだ。

  例えば、ニコンを世界のニコンにした、あの有名なダグラス・ダンカン(David Douglas Duncan/1916~)の名前が載っていない。多分、これは血なまぐさい戦場写真をリビングに飾る人など、いないからだろう。ダンカン自身、血の色を見るのが嫌だからという理由で、戦場ではカラー写真を1枚も撮らなかったそうだが、それにしても、戦場写真に対するパリフォトの冷遇ぶりは異常なほど徹底している。酒井淑夫、沢田教一、長尾靖。これら3人の日本人はピューリッツァー賞に輝いた有名な戦場写真家だが、彼らの名前もやはりパリフォトのカタログには載っていない。参考までにと思って、過去20年にわたるピューリッツァー賞の受賞者もチェックしてみたが、誰ひとりとして、パリフォトのカタログには載っていなかった。例えば、この賞の代表的な受賞者としてよく知られているフィン・コン・ウト(huynh Cong Út/1973年にピューリッツアー賞受賞)はベトナム戦争のときに、裸で逃げてくる少女を撮った「戦争の恐怖」という写真で一躍、スターになった報道写真家だが、彼もまたパリフォトとは無縁だ。だから、多分、パリフォトのカタログに載っている戦場写真家はマグナム・フォトロバート・キャパRobert Capa/1913〜1954)くらいだと思うが、ただし、彼の写真を売っているギャラリーにしても非常に少なく、パリにあるマグナムの直営ギャラリーを含めても3社だけだ。

 そして、何億円、何千万円で売れる作品もあるアンセル・アダムスの所属ギャラリーが2社しかないのも不思議だ。多分、これは販売権の取得自体が難しいからだと思うが、言うまでもなく、所属ギャラリーが少ないからと言って、人気がないと決めつけてはいけないだろう。ちなみに、パリフォトのカタログに名前が載っている写真家3389人のうち、78.8%に当たる2672人は所属ギャラリーが1社しかない写真家だ。しかし、その人たちのなかにも、そのギャラリーが看板スターとして期待している写真家、あるいは、育てようとしている写真家が案外多いようだ。例えば、ギャラリーが代表選手として期待している写真家はカタログに名前だけでなく、作品も同時に載っている。もちろん、そういう写真家は非常に少なくて、3389人のなかの192人(6%)だけだが、そのなかの90人は所属ギャラリーが1社の写真家だから、無名だが、輝いている写真家が案外多いということになるわけだ。ちなみに、日本人写真家のなかにも、カタログに名前と作品の両方が載っている看板スター的な写真家が13人いる。参考までに紹介すると。  

 ★森山大道(所属ギャラリー15社/生〜没年1938〜)★荒木経惟(同10社/同1940〜)★杉本博司(同7社/同1948〜)◉山本昌男(同7社/同1957〜)★深瀬昌久(同4社/同1934〜2012)★川内倫子(同4社/同1972〜)★野村佐紀子(同2社/同1967〜)◉横田大輔(同2社/同1983〜)◉大西茂(同1社/同1928〜1994)★山本悍右(同1社/1914〜1987)◉石川真生(同1社/1953〜)◉Masafumi Maita(同1社/漢字名・年齢不明)◉Katsunobu Taguchi(同1社/漢字名・年齢不明)。  

 ★印はウィキペディアの「日本の写真家一覧」に出てくる写真家、◉印は写真家一覧に出てこない写真家だが、★印が7人、◉印が6人で、ほぼ半々。実はカタログに載っている日本人写真家のなかには私が知らない写真家が非常に多いので、とても不思議だが、多分、日本には写真を売買できるギャラリーがあまり多くないので、海外に活路を求める日本人写真家が多いということではないだろうか。

 というわけで、パリフォトとフォトフィーバーの出展ギャラリーを国別に数えてみることにしたが、やはり予想通りだった。まず、パリフォトだが、圧倒的多いのが、やはりフランスで、190社中の63社、以下、アメリカ40社、ドイツ35社、イギリス13社、日本12社、イタリア8社、スイス7社、スペイン、中国各5社、デンマーク、ベルギー各4社、オランダ、ハンガリー、アルゼンチン、ウルグアイ各3社、ポルトガルギリシャオーストリア各2社、ルクセンブルグスエーデンポーランドフィンランドエストニアキューバ、インド、イラン、カタール、カナダ、南アフリカイスラエル、台湾各1社。<注>パリフォトには31カ国から190社のギャラリー、出版社、書店が出展したが、展示ゾーンが3つに分かれているので、上記集計数字には重複分も含まれている。香港は中国に入れた。

 次いで、フォトフィーバーだが、やはりトップはフランスで、73社中の33社、以下、日本10社、スペイン6社、イタリア、アメリカ各3社、ドイツ、スイス、ベルギー、台湾各2社、ポーランドギリシャ、マルタ、トルコ、オランダ、スロベニアカメルーン、オーストラリア、韓国、香港各1社。<注>フォトフィーバーの出展者数は19カ国の73社。日本からの出展が意外に多いが、こちらは主催者が市場拡大を狙って、アジアの写真家発掘に力を入れ始めたせいだろう。

 実はパリフォトとフォトフィーバーの期間中はギャラリーが沢山あるサンジェルマン地区で「フォトサンジェルマン(Photo Saint Germain)」(会期:11月3日〜19日)という写真の展示即売会も開かれるのが恒例になっているが、このイベントに参加するギャラリーだけで、何と42店だ。要するに、フランスには写真文化を育てる大きな受け皿があるわけだ。だから、写真家を目指すならパリということになるのだろうが、現に、フォトフィーバで出会ったタケシ・スミというユニークな青年写真家もパリ滞在5年だと言っていた。彼がパリに来たのは、雑音に煩わされないで、作品制作に集中したいからだそうだが、彼は相当に自惚れがひどく、「僕の写真は将来、絶対、値上がりしますから、いま買っておくべきですよ」と何回も何回も買わせようとするので、困ってしまったが、その積極さには逆に感心もした。なぜなら、写真機材の展示会でこれほど熱心に商品の売り込みをかけてくる説明員に出会ったことがなかったからだ。ただ、彼の作品も私の目にはアートもどきにしか見えなかったので、いくら薦められても、買う気にはならなかった。

 パリフォトのカタログを見て驚いたことがまだある。日本で有名な写真家の名前がほとんど出てこないことだ。例えば、上野彦馬や下岡蓮杖は仕方がないとして、名取洋之助、渡辺義雄、入江泰吉土門拳秋山庄太郎林忠彦、中村正也、大竹省二、三木淳、篠山紀信白川義員田沼武能、熊切圭介、三好和義織作峰子の名前も出こない。かろうじて出てくるのは、木村伊兵衛(所属ギャラリー2社)、立木義浩(同1社)くらいのものだから、とても不思議だ。日本の大物写真家たちはきっと、外需を当てにしなくても、内需だけで十分食べていけるのだろう。

 逆に、欧米の写真家たちは不公平じゃないかと思ってしまうくらい優遇されている。例えば、アンセル・アダムスはポール・ストランド(Paul Strand/1890~1976)の作品に感銘を受けて写真家になろうと決意したそうだが、 パリフォトのカタログには、このポール・ストランドという、私など、全く知らなかった名前まで、ちゃんと載っているではないか。しかも、彼のお抱えギャラリーは5社もある。また、来年のCP+2018と併催される「フォト・ヨコハマ2018」のポスターの写真はマグナム・フォトの会員として、また、アンリ・カルティエブレッソンの奥さんとしても有名だったマルティーヌ・フランク(Martine Franck/1938~2012)が撮ったものだが、彼女の名前もパリフォトのカタログにちゃんと載っている。しかも、お抱えギャラリーが3社もあって、恵まれている。

 しかし、お抱えギャラリーの数が3社とか5社程度で驚いちゃいけない。その数が15社というもの凄い人気の写真家もいるからだ。もちろん、そんな人は一人だけだが、日本の現役写真家、森山大道だ。不気味な野良犬の写真を始め、撮影意図がまるで分からない写真が多いが、とにかく、写真は何でもありが基本なので、素直に評価したほうがいいのだろう。

 ちなみに、お抱えギャラリーが5社以上の写真家は3389人のうち77人だが、そのなかに日本人が9人いる。荒木経惟(お抱えギャラー10社)、須田一政(同9社)、東松照明(同9社)、杉本博司(同7社)、細江英公(同7社)、山本昌男(同7社)、石内都(同6社)、杵島隆(同5社)、柴田敏雄(同5社)の9人だが、荒木経惟よりお抱えギャラリーの数が多いのは、アンドレ・ケルテス、マン・レイエリオット・アーウィット、マーチン・パー、ウイリアム・クライの5人だけ。あの有名なロバート・フランクリチャード・アベドンダイアン・アーバスアービング・ペン、サラ・ムーン、エドワード・スタイケンエドワード•ウエストン、ウジェーヌ・アジェ、アンリ・カルティエブレッソン、そして、今年のル・サロン・ドゥ・ラ・フォトのメインゲストとして招かれた、「神の眼を持つ」と敬われているセバスチャン・サルガドでさえ、所属ギャラリーの数においては荒木経惟よりも格下だ。  

 しかし、パリフォトのような世界的な展示会で高い評価を受けられるのは、ごく限られた人たちだ。お抱えギャラリーの数でランキングをつくってみると、その上位のランクにマグナム・フォトの大物会員たちが沢山出てくるが、マグナムの92人の会員(故人が24人)のうち1人はお気の毒にも、お抱えギャラリーが1社もないではないか。そして、92人のうち43人はお抱えギャラリーの数がマグナムの直営ギャラリーただ1社だけというのが寂しい実情だ。だから、写真家という職業は決して経済的に楽ではないはずだが、それでもいいから、どうしても写真家になりたいという人は、ギャラリーの少ない日本でなく、せめて、ギャラリーが多く、また、写真を見る眼が確かな人が多いフランスに活躍の場を求めるべきだろう。

 もちろん、フランスに行くなら、その前にフランス人の写真を見る眼が本当に確かなのかどうかを、しっかり確認してからにしてほしいが、少なくと私は今回のパリフォトへ行って、それが「確かだ」ということを確信することができた。なぜかというと、パリフォト2017が開かれたグランパレで、もう一つ、写真のビッグイベント、アービング・ペン(Irving Penn/1917~2009)の生誕100周年記念回顧展(会期:2017年9月21日〜2018年1月29日)が開かれており、会場の国立ギャラリー(Galeries Nationales)の前に長蛇の列ができていたからだ。多分、日本ではアービング・ペンの写真展が開かれても、長蛇の列ができることはないだろう。   

 また、パリフォトのほうも「早く行って並ばないと入れないよ」とさんざ脅かされていたので、フランス人は間違いなく写真が好きな国民だ。実はこのパリフォトに行くとき、あまりにも急いでいたので、途中、偶然、出くわしたアービング・ペンの行列を迂闊にもパリフォトの行列と間違えてしまったくらいだ。幸か不幸か、パリフォトのほうは全然待たずに入れたので、何だか、パリフォトの主催者が気の毒になったくらいだが、3時間ほどあとにパリフォトから出てきたとき、また驚いてしまった。国立ギャラリーの前に相変わらず長蛇の列が続いていたからだ。いうまでもなく、私がパリフォトに行ったのは、アービング・ペンの写真展が始まって50日ほど経っていた頃だから、フランス人の写真に対する感心の高さは、日本人の想像を絶すると言ってもいいだろう。

 余談だが、アービング・ペンの画像をネットで検索していたら、彼がチノンの一眼レフ「CE-4」を構えている写真が出てきた。「弘法筆を選ばず」だ。  

 それにしても、どうしたら、フランス人のように写真が好きになるのだろう。特に、最近の写真は何でもありなので、理解するには、ものすごい勉強が必要だと思うが、フランス人が勉強を強制されているふしは全くない。その代わり、不勉強な人にとって、パリフォトはとても敷居の高いイベントだ。しかし、パリフォトは勉強を強制はしない。不勉強な人は無理して来なくてもいいよ、というスタンスのイベントだ。そのせいか、入場料が高い。アービング・ペンの回顧展は13ユーロだったが、パリフォトは平日32ユーロ、週末35ユーロ、カタログは25ユーロだ。だから、私は無料のプレスパスをもらおうと思って、ネットであれこれ申し込んでみたが、全く歯が立たず、早々とギブアップせざるを得なかった。

 ちなみに、ル・サロン・ドゥ・ラ・フォトのほうは、ほとんどフリーパスみたいな状態で、すぐに無料のプレスパスをもらうことができたが、パリフォトは審査が非常に厳しく、あの鉄壁のCESやIFA、そして最近のフォトキナも問題にならないくらいの厳しさだった。

 例えば、パリフォトの審査をパスするには「あなたはパリフォトの宣伝にどのような貢献をこれまでにされてきましたか」という厳しい質問に答えないといけない。だから、私に無料のプレスパスが送られてくることは永久にないだろう。パリフォトは「どなたでもどうぞ」という気楽なイベントではないわけだ。  

 最後に、本来なら、二つの展示即売会に展示された作品の紹介や、ギャラリーの紹介もすべきだろうが、残念ながら、私には写真を見る眼がないので、それはやめて、ちょっと気になった写真家の名前とギャラリーの名前だけ紹介して、あとはネット検索して頂くことにしたい。

 ギャラリーで名前が気に入ったのは「KOBE 819 GALLERY」。「819って?」と尋ねたら「僕の誕生日です」とギャラリーの若いオーナー、野元大意さん。彼に教えてもらったことだが、819はタゲレオタイプが発表された日でもあるそうだ。ちなみに、私が今回宿泊したパリのホテルは、その昔、ダゲールが住んでいたモンパルナスのダゲール通りにあるダゲールホテルだ。何かの縁だろう。   

 もう一つ気に入ったギャラリーは東京都台東区東上野にある「ミンナノギャラリー」。そして、そのギャラリーのブースに作品を展示していた西村陽一郎さんも気になる写真家だ。いわゆるフォトグラムとスキャングラムという手法を使って作品を制作している写真家だが、カメラは全く使わないので、厳密には写真家と言わないほうがいいのかもしれない。フォトフィーバーの会場に飾られていた巨大なヌード写真はレンズを通したものではなく、いわゆるフォトグラムという手法で印画紙に直接光を当てて制作したものだ。地元の新聞にも取り上げられ、ちょっとした話題になったそうだ。

 スキャングラムもやはりカメラは使わず、スキャナーで画像を取り込み、赤い花を青色に反転して出力する手法だ。怪しげな青色の花の写真に立ち止まる人が結構いたので、気になる人は一度、ネットで検索してみるといいだろう。ミンナノギャラリーのディレクター、田森葉一さんも好青年だったので気に入った。

 写真家の森下和彦さんは東京都台東区寿の「風ギャラリー」のオーナーでもあるが、作品は全て風景の合成写真。合成という手法を取り入れたのは、より理想に近い風景を生み出したいからだろう。彼はプリントの色にも徹底的にこだわっている。まるで、日本画のようなシットリとしたとした色合いが気に入ったので、いつか、彼のギャラリーを訪ねたいと思っている。  

 もう一つ、いつか訪ねてみたいギャラリーは「INTERART 7」 。「作品にカメラや絞りのデータまで添付しているバカがいる」というオーナーの小林貴さんの言葉が気に入ったからだ。

 未来の大物、タケシ・スミくんの検索も是非やってみてほしい。もしかすると、本人が言う通り、いつか本物の大物作家に化けるかもしれないからだ。  

 以上はフォトフィーバーで出会ったemerging artist、つまり新進写真家たちなので、誰もパリフォトのカタログには載っていないが、パリフォトの出展写真家も二人だけ紹介しておこう。

 一人はYossi Milo Gallery所属のMeghann Riepenhoff(1979年生まれの米国人)。Three Dynamic Cyanotypesという手法でポートレート写真を繊維織物のようなマチエールの写真に仕上げたものを壁には飾らず、テーブルの上に山のように積み上げて懸命に命に売り込んでいたが、さすがに展示即売会だけあって、出展者たちはみんな真剣だった。しかも、実際に売れていた。  

 もう一人はカナダ・トロントのStephen Bulgerというギャラリーが販売権を持つSarah Anne Johnson(カナジ人/1976年生まれ)という写真家。パリフォトのブースに「Glittering Sunset 1」(68,58×48,26cm)という作品を6000ドルで出していた。顔料インクでアーカイバルペーパーにプリントし、その上にビニールを貼りつけ、そのビニールにナイフか何かで切れ目を入れた、お決まりのアートもどきの作品だが、制作した本人は何とかキラキラ光る夕日の感じを出そうと、大真面目に取り組んでいることが分かる作品だったので、半ば同情心で紹介した写真家だ。果たして、こんなアートもどきの作品が6000ドルで売れるのかどうかは見当もつかないが、神の眼を持つ写真家、セバスチャン・サルガドの作品はどうかというと、別にどうってことのないポートレート写真なのに、1万500ドル(19.5×24インチ)と1万7700ドル(23.5×35.5インチ)の値段がついていた。もちろん、サルガドが決めた値段ではないと思うので、責める気はないが、写真文化が生み出している、何だか華やかそうに見える市場も、本当は常識では考えられないほど特殊で異常な世界なのかもしれない。(有限会社エイブイレポート社 代表取締役 吉岡伸敏 記/2017年12月18日)

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パリフォトは8年前からグランパレで開かれるようになった。

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パリフォトのカタログは3.3cmもあって、25ユーロもする。

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パリフォトの期間はサンジェエルマンのギャラリー42店も即売会を開く

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私が宿泊したダゲール通りのダーゲールホテル。三ツ星だが、モンパルナスの駅に近くて便利。すぐ近くにラーメン屋とお寿司屋さんがある。

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ヨチヨチ歩きの子供を連れた家族が多いのに驚いた。

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パリフォト会場のグランパレではアービング・ペンの回顧展も開かれていた。長蛇の列ができ、人気はパリフォトを上回るくらいだった。

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パリフォトで紹介されていたMeghann Riepenhoffさんの作品。織物ではなく3 Dynamic Cyanotypesという手法で作られたポートレート写真だ。

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 パリフォトで紹介されていたSarah Anne JohnsonさんのGlittering Sunset 1という作品。プリントにビニールを貼りつけ、それに傷をつけて、キラキラ感を出そうとしている、ちょっと健気な作品なので、不本意ながら紹介することにした。

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パリの街のなかにもパリフォトのデジタルサイネージュを見かけた。

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「神の眼を持つ」と言われるセバスチャン・サルガドはサロン・ドゥ・ラ・フォトのメインゲストとして招かれ、会場の2カ所で写真展が開かれた。トークステージも黒山で、お客さんは部屋の外にまであふれ出した。

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サルガドの作品が展示されたパリフォトのブース。平凡なポートレート写真だが、1万500ドル、1万7700ドルの値段がついていた。

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パリフォト会場。ドームの天井がとてもお洒落だ。

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写真が大好きなフランス人も疲れるのは日本人と同じらしく、ベンチはみんな満席。

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これはパリフォトとは無関係なサービスの1枚。ロベール・ドアノーの有名な「パリ市庁舎前のキス」の舞台。そう、本物のパリ市庁舎。