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avreport's diary

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こんなカメラがほしい

CP+2018パネルディスカッションより

 CP+2018(パシフィコ横浜で2018年3月1日〜4日開催)の初日に開かれた恒例のステージイベント『上級エンジニアによるパネルディスカッション』(15:00〜16:30/会議センター)を遅くなりましたが紹介します。今年のテーマは『こんなカメラがほしい』でした。とてもワクワクするテーマでしたが、残念ながら期待はずれでした。最もガッカリしたのは、8人のパネリストのどなたからも『こんな写真が撮りたい』という夢が語られなかったことです。そして、当然のことながら、撮りたい写真のない人たちからは『こんなカメラが欲しい』という夢が語られるはずもなく、結局、なぜ、こんなカメラが欲しいのかという理由の説明や、欲しいカメラの新しい機能や新しいデザインの具体的な提示もまったくありませんでした。そればかりか、呆れたことに、壊れないカメラとか、何年経っても飽きのこないカメラとか、いつも連れ歩いて貰えるカメラとか、物として価値が感じられるカメラとか、言ってしまえば、当り前の、敵の目を欺くのが目的としか思えないような、おざなりな言葉しか聞くことができませんでした。多分、どのパネリストも特定のメーカーに所属しているという縛りがあって、自由な発言ができなかったのだと思いますが、もし、本気でこんな平凡な発想でカメラ市場を拡大できると考えているのだとしたら、日本のカメラ業界は絶望的だと思います。というわけで、できれば、来年のパネルディスカッションのテーマは『こんな写真が撮りたい。だから、こんなカメラがほしい』と、もう一捻りしたものにして、合わせてパネリストの顔ぶれもカメラメーカーのエンジニアではなく、20代、30代、40代、各世代男女各1人、計6人のプロカメラマンに登壇して頂き、メーカーエンジニアとはまた違った角度からのご意見をお聞きしてみたいと思います。なお、本稿はICレコーダーで録音したものを活字化したものなので、聴き取りにくいところや、意味が分りにくいところは、言い換えたり、短くしたり、省略したり、あるいは同じ言葉が無駄に繰り返されているところは削除したりという編集を施していますので、文責は編集部にあります。

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 パネルディスカッションの登壇者は写真(上)の8名、司会は日本カメラ博物館の市川泰憲氏と日本大学芸術学部写真学科教授の甲田謙一氏。

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 市川「今年のテーマは『こんなカメラがほしい』です。実は、毎年、テーマが電車の中吊りみたいになって、実態と中身が乖離していないかというご意見も一部にありましたので、今年は趣向を変えて、まずパネリストの皆さんに、ご自身で撮られた写真をお見せ頂き、簡単な自己紹介と、お見せ頂いた写真の撮影意図をお話し頂きます。それを通じて、パネリストのみなさんが、どんな方なのか知って頂ければと思います。それでは、オリンパスの片岡さんからお願いします」    

    片岡「これは『私の1枚を出せ』と言われて出した写真ですけど、最初から変化球みたいな球を投げて申し訳ありません。私は1991年にオリンパスに入り、それからずっとカメラのメカ設計と商品企画を担当し、いまは開発本部にいます。私の1枚は弊社のカメラに搭載されているアートフィルターという機能を使って撮った写真です。今日のテーマにもちょっと関連しますけど、銀塩時代のカメラはピントを合わせたり、露出を合わせたり、手振れに気をつけたりしないといけなかったので、ある意味、ちゃんと撮るのが難しかったわけですけど、カメラが、ドンドン、オート化され、色んな写真が撮れるようになったために、逆に、ちゃんと写真を撮るという楽しみがなくなってしまったような気がします。それは写真文化の衰退にも繋がるのではないかということで、我々が考えた救済策が色んな表現ができるアートフィルターです。つまり、アートフィルターをかけることによって、色々面白いことができますよという提案をしているわけです。私の1枚は花火大会の写真です。普通、花火大会の写真は爽やかな感じだとか、涼しげであるとか、そういうイメージですけど、アートフィルターをかけることによって、おどろおどろしいとうか、不安げというか、ちょっと普段とは違う表現ができたかなと思って、この1枚を選んでみました」

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 市川「私もドラマチックトーンなどは普通の写真を本格的な作品に化けさせることができるので、面白いなと思います。続きまして、キヤノンの竹下さん、お願いします。竹下さんは、元々、コンパクトカメラを担当されていましたが、いまはカメラ全体を見ておられます。この作品もコンパクトカメラでお撮りになったものだということです」

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 竹下「私はコンパクトカメラのメカ設計をずっとやってきましたが、いまは一眼レフを含めて全体を見る部署にいます。この写真はコンパクトで撮ったものです。去年、蔵王にスキーに行ったときに撮ったゲレンデの樹氷原です。ずっと曇っていたゲレンデが急に晴れてきたので、感動して撮ったものです。夕日が当たって、樹氷がオレンジ色に輝いています。滑りながら撮った1枚ですが、私は、普段から身体を動かすのが好きなので、私の特徴的な1枚になるかなと思って選びました。スキーのときは天気が良くても悪くても、一応、カメラは持って出ます。天気が悪いと撮らないことも多いんですけど、天気の良いときは、そこでしか撮れないような写真を撮りたいと思っていますので、気軽に持って出られる、小さなカメラの性能をあげていくことも永遠の課題だと思っています。この写真は単に綺麗な景色に感動して、あまり深く考えずに撮ったものですけど、こういった風景の写真は色を残しながら明るさを調節するのが難しので、本当はダイナミックレンジがもっと欲しいなと思いながら撮っていました」

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 市川「竹下さんの写真は普通のモニターで見ますと、もっと空が青くて、太陽も雲海も非常に綺麗に見えますけど、このモニターだと分りにくいかもしれません。続きまして、シグマの大曽根さんにお願いします。大曽根さんは、元々、機械設計を担当されていましたが、現在は商品企画部長として、カメラとレンズの全般を見ておられます」

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 大曽根「私は最初、メカ設計を担当していましたが、その後、メカの部長からレンズ開発全体の部長になり、現在は商品企画を担当しています。もっと簡単に、中学、高校、大学と、ずっと写真部でしたと言ったほうが、皆さんには分りやすいかもしれません。青春を暗室で過ごしたような人間ですけど、この写真は皆さんのような努力をして撮ったものではありません。山梨の清里の近くに家族でドライブしたときに、道からちょっと下りて、三脚を立ててパッと撮っただけのものです。sd QuattroのAPS-Cと35mmF1.4のセットで撮ったものです。このモニターでは、ちょっと分りにくいと思いますけど、木にピントが合って、背景はほんの僅かボケているという写真です。この写真を選んだのは、私が肉眼で見た風景と、ほぼほぼ同じように撮れたと感じられたからです。  

    今のカメラは高速連写とか、高感度とか、小型化とか、フイルムカメラの時代には考えられなかったような進歩を遂げて、ほぼほぼ、ゴールに近づいているような観があります。ただ、作品づくりとか、絵づくりとなると、もう少し追い込まないといけないように思います。例えば、FOVEONセンサーなら質感が撮れるとか、汚れが撮れると言えると思います。あるいは、被写体の隅から隅まで写してしまう、そういう解像度の高さが作品づくりに活かせるんじゃないかと思います。この写真もモニターで見た瞬間、この通りだったよなという、そういう感動があったので、選ばせてもらいました」

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 市川「なかなか難しい被写体ですね。私もレンズの色収差を見るときに、こういう被写体をよく撮ります」

 大曽根「レンズが最も苦手とする被写体です」

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 市川「続きまして、ソニーの中島さんにお願いします。中島さんは撮像素子がご専門ですが、一番最初のサイバーショットであるDSC-F1の開発から担当なさっていますので、デジタルカメラのキャリアは一番長いと思います」  中島「私のエンジニア時代の担当はイメージセンサーとその信号処理のLSIバイスでしたが、いまはマネージャーとして、カメラの開発全般を担当しています。下の写真は1996年頃にDSC-F1で撮ったスナップ写真ですが、大きくしなかったのは、妻にあとで羽交い締めにされると思ったからです。というのは冗談で、この時代は画素数VGA、640×480という小さな画素サイズの時代だったからです。上の大きな写真は一昨日発表したα7Ⅲです。画素サイズが6000×4000ですから、この20年間に約2桁の進化を遂げたわけです。感慨深く思って、この写真を載せました。実際には、妻との写真はもっとちっちゃいんですけど、これ以上小さくすると、何が写っているのか分らなくなっちゃうので、ある程度大きくしました。ちなみに、上の写真は私の妻ではありません(会場笑)」

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 市川「有り難うございました。確かに、VGAのプリントはマッチ箱より小さかったように思います。プリントの解像度は120dpiくらいでしたか。それに比べると、凄い進歩だと思います。続きまして、ニコンの村上さん、お願いします。村上さんは先日、タイに出張されたときに、寺院の写真をわざわざ撮り下ろしてくださったそうです」

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 村上「私もメカ設計の出身ですが、いまはD5とかD500といった一眼レフカメラの設計を担当しています。2週間ほど前、タイの工場に出張しましたので、そのときにD7500を持ち歩いて、街なかのスナップを撮ってきました。タイの工場は空港から北に80kmくらい行ったアユタヤという田舎町にあります。いつもは空港からアユタヤに直行して、缶詰にされ、仕事が終わり次第直帰の繰り返しですけど、今回はCP+に写真を出さないといけないということで、1日だけバンコクにも泊らせてもらいました。しかし、そのあとアユタヤでも写真を撮り、結局、アユタヤの写真をお見せすることになってしまいましたので、一体、何のためにバンコクに泊ったのか、ちょっと言い訳ができない状態になっています(笑)。アユタヤには寺院が幾つかありまして、夜7時くらいからライトアップされます。それを、ちょっと撮ってきたわけですけど、日本のライトアップより、だいぶ暗いものですから、この写真はシャッタースピードを1/3くらいに落とし、ISO感度を1600くらいにして撮っています。ついでに、スマホでも撮ってみましたけど、やはりスマホではちょっと厳しいと思いました。我々は作ったカメラを皆さんに、いつも連れ歩いてもらいたいと思っていますし、私自身も連れ歩きたい、というところがありますので、今回は自分でカメラを連れ歩いて撮ってきたアユタヤの雰囲気を皆さんに少しでもお伝えしたいということで、この写真を選ばせてもらいました」

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 市川「この寺院は手持ちですか。それとも、三脚をお使いになったんですか」

 村上「気軽に連れ歩こうということですので、三脚は持っていきません。それで、柵とかに置いて撮ったんですけど、蚊が沢山いて、腰を据えて撮れなかったというのが、ちょっと難点でした」

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 市川「続いて、パナソニックの森さん、お願いします。森さんはビデオカメラのソフトを最初は担当されていたということですけど、今回はラッシュアワーという高尚な写真を出して下さいました」

 森「大阪のビデオカメラ出身なので、大阪らしくて、私らしい写真をちょっと考えてみました。私は、元々、動画担当でしたので、光跡の写真が大好きです。動きを1枚の写真に表現できるからです。この写真は伊丹の有名な撮影スポットです。私が撮りました。夜8時です。シャッタースピードを60秒に設定しますと、一つの滑走路で離陸と着陸をほぼ同時に撮ることができます。そういうチャンスは1日に2回しかありませんので、よく撮れたなあと自分でも感心します。実は、この写真には先生のお手本があります。先生にこんな写真、私にも撮れますかとお聞きしましたら、撮れますよとおっしゃって、撮り方を教えてくださいました。伊丹へ行ったのは1週間ほど前ですけど、意外と撮れたので、時間と構図とカメラの設定をすべて教えて貰えば撮れるもんやなあというのを、今回、学習しました」

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 市川「大変素晴らしい写真を有り難うございます。これはフィルターとか、エフェクトをおかけになったんですか」

 森「かけていません」

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市川「続いて、富士フイルムの上野さん、お願いします。上野さんはフイルム時代から、ずっと写真をご自身でも撮られていますので、去年も上野さんだけ、作例を紹介しましたけど、今回の写真を見て、初めて、上野さんらしい写真が出たなあと私は思いました」

 上野「私はフイルム時代から、ずっと、定期的に作品を撮りに行っています。これは去年の夏、ちょっと時間があったので、友達のモデルさんに声をかけて撮ってきたものです。このときは、結構、気合いが入っていて、洋服も一緒に買いに行き、僕自身で洋服を選びました。時間帯や当日の天気は微妙だったんですけど、奥の太陽の真上にあるのが富士山です。夕方の逆光なので、広いダイナミックレンジが欲しいと思って、GFXとまだ発売前だった45mmのテスト品を持ち出して撮ってきました。写真の面白さ、特に人物写真の面白さは、物語りを組み立てるみたいに、絵コンテを描き、衣装を決め、物語りをずっと自分で支配できるところです。特にフイルム時代は打合せをして、洋服を買いに行って、撮影をしますから、モデルさんと3回遊べるわけですね。これもなかなか良いところです。さらに、現像があがったら、もう1回見せるね、というのもあったんですけど、デジタルになって、それがなくなっちゃいましたので、俺の1日を返せとい言いたくなりますけど、ま、しょうがないので、最近はデジタルで、こういう感じで撮っています」

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 市川「服まで一緒に買いに行っていたとは、知らなかったです(笑)」        

   上野「この娘とは、服の趣味があまり合わないので、服選びをこの娘に任せると、エッ、それ?となりますので、今回は買ってあげるから俺に選ばせろと言って選びました」

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 市川「続いて、リコーの小迫さん、お願いします。小迫さんはSmart Vision事業本部という、あまり聞き慣れない部署にいらっしゃいますけど、作例は『高感度性向上効果の確認』という非常に真面目なタイトルです。是非、この解説をお願いします」  

    小迫「締めにこんな写真で申し訳ありません。出だしのオリンパスの片岡さんが変化球でしたので、締めも変化球でいくことにしました。今回、自分の写真を1枚というご依頼がありましたが、思い返してみると、最近、自分の写真を撮っていないことに改めて気づきました。じゃあ、最近、何を撮っているのかと言いますと、製品の性能をちょっと確認したり、評価したり、そういう写真は一杯撮っていますので、じゃあ、そういうものを、一度、皆さんにも見て頂こうかなと思って、この写真を選びました。前置きが長くなりましたけど、この写真は、高感度性能を調べたものです。従来ですと、夜景めいたものは長秒で撮るのが普通でしたけど、高感度性能が上がってきますと、比較的速いシャッターで撮れるようになります。それを確認するために、噴水を撮ってみました。噴水というのは常に動きのある動体ですけど、噴水の位置は動かないという便利な被写体ですから、評価用にはもってこいです。あとは手前の噴水と奥の建物を絞り込んで撮ったときに、どのくらい深度が稼げるかという確認ができる写真も撮っています。それから、日比谷公園の噴水は日が暮れるとライトアップされますが、通る人が殆どいないので、色々、条件を変えて撮っていても、あまり皆さんの邪魔にならずに評価用の写真が撮れるという便利なポイントです」

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 市川「ということで、イントロで30分かかりましたけど、皆さんがどういう写真をお撮りになっているのか、私は非常に興味深く拝見致しました。さて、本題の『こんなカメラがほしい』に移りたいと思います。勿論、ユーザーが考える『こんなカメラ』と、作る側の『こんなカメラ』にはギャップがあると思いますけど、作る側のこんなカメラって、どんなカメラなのか、上野さん(富士フイルム)から、いかがですか」

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 上野「技術的には、もうこれ以上、付け加えるものはないと思います。冒頭でオリンパスの片岡さんがおっしゃっていましたけど、何でもできるようになっちゃうと、それを習得する楽しみとか、写真が巧くなったのを実感する楽しみが減っていくような気がしますので、今だからこそ、そういう楽しみを実感できるカメラとか、物として本当に価値のあるカメラが欲しいと思います」 

 市川「次に、今日、私と一緒にモデレーターをして頂く甲田先生にはユーザー代表として、CP+2018の会場をご覧になった感想をお話して頂きたいと思います」

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 甲田「今回は意外にと言ってはメーカーの方に失礼かもしれませんけど、新製品が少し少ないような気がします。ただ、改良はドンドン、進んでいるように思います。ここにもありますように、『スマホに負けないカメラ』だとか『インスタ映えする写真が撮れるカメラ』だとか、一般的に言うと、そういうカメラが『欲しいカメラ』の一つの目標になるかもしれませんけど、『小型で軽量のカメラ』として、フルサイズのミラーレスが、もっと沢山出てきても良かったんじゃないかと思います。実を言いますと、今年はそれがどちらかから(キヤノンニコンから)、間違いなく出てくるんじゃないかと期待していたのですが、ちょっと期待はずれでした。ソニーさんはアルファのミラーレスですでにフルサイズがありますけど、来年か再来年にはニコンさん、キヤノンさん、もしかするとペンタックスさんもフルサイズのミラーレスで揃い踏みということになるのではないかと思います。α7シリーズはご存知のように、いままでのAPS-Cサイズのカメラとほぼ同じか、それよりも小さいくらいの筐体のなかにフルサイズのメカニズムを収めています。フルサイズが、ライカ以来、廃れないで使われているのは、レンズの焦点距離だとか、ボケだとか、そういうものの都合が実に良いタイミングでできているからです。それで、今年はもう少しフルサイズに発展があるのではと、ちょっと期待をして、ちょっと期待外れだったわけです」

 市川「フルサイズのミラーレスはソニーさんだけでなく、各社から出てきても当然だろうと思います。例えば、Foveonのシグマさんのフルサイズミラーレスは、ユーザー自身も相当待っていると思います。そういうものを作ってみたいとか、大曽根さん(シグマ)、どうですか」

 大曽根「作ってはみたいですね。うちはセンサーまで全部、自前でやっているので、簡単に新しいサイズのセンサーを作れます、といわけにはいきませんけど、フルサイズのカメラはいつか作りたいと考えています。ただ、フイルムの一眼レフで痛感していたことですけど、フルサイズって、ちょっと大きすぎるなあという気もちょっとします。例えば、キヤノンのEOS Kissとかミノルタのα- Sweetはコンパクトで凄く可愛い、良いカメラでしたけど、フルサイズがまったく寄与してなくて、ファインダーに関しては殆ど、視野率が90%とか、そういう苦しいところを何とかやっていたように思います。フルサイズのミラーレスになって、それが無くなった反面、小型化が色々、トータルで難しくなっているのかなあ、というのも実感しています。私はスーパー35という映画のサイズも好きです。あのボケとか、あの世界はスチルの世界でも今後、主流になってもいいと思いますし、もうワンランク下の小さいフォーサーズも充分、力量があって、世界観があると思っていますので、このバリエーションが業界を広げていくんじゃないかと、そんなイメージを持っています」

 市川「確かに、フイルムの場合はフイルムの面積そのものが画質に影響するという考えでしたが、デジタルの場合は画素数に左右されると一般的には言われています。この点について、何かご意見がある方、手を挙げて下さい。じゃあ、中島さん(ソニー)、お願いします」

 中島「ソニーはフルサイズのミラーレスを出している唯一のメーカーですので、ここで話しておかないといけないかなと思いまして(笑)。昨年、α9という割とプロの方をターゲットとしたカメラを出しましたが、スポーツカメラマンの方に褒めて頂きました。焦点距離違いの2台を首からぶら下げて、現場を走り回っている方ですけど、小型軽量で良かったよと、もう歳をとって、最近、大変なんだ、これで僕のカメラマンとしての寿命が延びたよ、というような感想を述べて下さる方がいらっしゃいました。ソニーは性能が良ければ、小型軽量であることがプロの方にも一般のお客様にも非常に助けになると思っています。そして、小型軽量を出すのが非常に得意でもありますので、ここに注力して取り組んでいます」

 市川「α9は素人の方でも割と簡単に撮れますね。この写真は素人の方がまさにこのカメラで撮った写真です。買ったばかりで、嬉しくて撮ったものですが、こういう写真が一般の方にも撮れるようになるというのは楽しいことだと思います。サイズという意味じゃ、片岡さん(オリンパス)どうですか。フォーサーズという辺りで」

 片岡「これを堂々と話せるのはソニーさんだけだと思います。当然、私も銀塩の頃から写真を撮っていますので、レンズの焦点距離によって、このくらいボケるといったことは分りますけど、デジタルの時代になったら、そのバランスを変えてもいいんじゃないかというのが、オリンパスの考え方です。デジタル技術は進化していきますから、レンズの大きさやボディの大きさと画質のバランスはフイルム時代とは変ってくると思っています。昔は、良い写真を撮るには中判カメラでなきゃいけないと言っていましたけど、フイルム性能の向上によって、速写性のある一眼レフの方が良いというふうに時代が変っていったように、デジタル時代にも、そのバランスが変る余地があるんじゃないかと考えています。というと、何となく喧嘩を売ったような感じになるので、あまり言いたくなかったんですけど、一応、そういうことです」

 甲田「実は私が使った最初のカメラはハーフサイズのオリンパスPEN Fでした。感度は超低感度のISO25くらいでしたけど、それを使ってフルサイズに負けない画面を必死で作ろうとしていた頃のことが、いま蘇りました。オリンパスの片岡さんからもありましたように、小型の撮像素子には良いところが沢山あります。小型の撮像素子だからこそ撮れる写真があります。キヤノンの竹下さんも小型のカメラをもっと良くしたいと、おっしゃっていましたけど、センサーサイズが1インチくらいまでの小型カメラでないと撮れない写真が沢山あります。いまや、撮像素子が1インチでも2000万画素が当り前の時代ですから、プロのカメラマンでも被写界深度を稼ぐために、小型の撮像素子を使ったカメラを使うことがありますし、逆に大型の撮像素子のカメラを使うことによって写真の内容を変えるというような使い分けができるのが、いまのデジタルの時代じゃないかと思います」

 市川「確かにそうですね。私が使っているカメラもフルサイズとコンパクトズームの2種類ですけど、最近はコンパクトズームの代りにスマホを使うことが多くなってきたので、スマホに負けないコンパクトズームを是非作って欲しいなと思っています。私は仕事柄、物撮りや、カメラの姿写真を撮るのに、コンパクトカメラを使っていますけど、こんな便利なものはありません。昔は本格的なライティングが必要でしたけど、いまはもう自然光でシャッターを押すだけです。ブレなきゃ、綺麗に撮れます。これはやはりデジタルの魅力だと思いますけど、スマホに縄張りを荒らされないような、ちゃんとした何かがコンパクトカメラにもあったらいいなと思っています。如何でしょう。竹下さん(キヤノン)どうですか」

 竹下「スマホは本当に進化して、非常に綺麗な写真が撮れるようになったなあと思います。ただ、光の具合とか、アングルとか、色んなシーンに対応しようとすると、ポテンシャルとしては、やはりコンパクトカメラの方が上かなと思います。そういうポテンシャルを秘めたまま、コンパクトカメラをどう小さくしていくかが一つの課題だと思っていますが、うちの二人の娘は、私がコンパクトカメラで撮っていると、私もコンパクトカメラが欲しいと言ってくれます。娘達はスマホでは満足できないことを実感しているのだと、私は信じて日々やっております」

 市川「つい最近の、とある新聞によりますと、インスタグラムに投稿されるスマホの写真が増えるにつれて、デジカメが復調してきたとのことです。これが正しいかどうかは別にして、スマホじゃ、やっぱり満足できない、というような考えも出てきているような気もします。どうですか。どなたか、ございませんか」

 小迫(リコー)「アノー、折角、映して頂いたので・・・」  

 市川「何ですか(笑)」

 小迫「私たちのTHETA Vによって、デジカメが復調してきたかのような誤解を与えているんじゃないかと・・・(笑)。たまには、新聞も有り難い記事を書いてくれるんだと思ったわけです。私どもは中判カメラからコンパクトデジカメまで、フォーマットサイズが最も多様なメーカーですけど、どれが一番良いフォーマットかという議論はしていません。いま、皆さんがおっしゃられたように、切口によって、良いところと、悪いところが出てきますので、結局、どういう被写体を撮りたいか、あるいは、どのような表現で撮りたいかというところで、道具を選んで使って頂くのが、メーカーとしては一番有り難いと思っています。例えば、645をずっと使って頂いているお客さんも、スマホをちゃんと使われていますので、使い分けをして頂きたいと思います」

 市川「いかにも、小迫さんらしい、真面目なお話で有り難うございます」 

 上野(富士フイルム)「インスタ映えが、最近、凄く話題になりますけど、求めるクオリティがインスタ映え程度だったら、コンパクトカメラは要らないと思います。スマホはドンドン良くなりますから、カメラを作る人はもっと上を目指すべきだと思います。いまでは、スマホでもバックをボカすことができますし、色だって変えられます。ですから、何か、もうちょっとカメラって、高いところを目指すべきじゃないのかと思います。例えば、それを所有すること自体に価値がある、というふうにしたいと我々は思っています」  

 市川「質をとるか、量をとるかみたいな感じですね」

 上野「トータルの質、プロダクトとしての質を目指すべきだと思います。勿論、画質もそうですけど、そこだけを目標にしていると、やっぱり駄目だと思います。最終的にはクリエイティブなものですから」

 市川「甲田先生から質問だそうです」

 甲田「小型の撮像素子の場合、画素数だけ上げていきますと、一般的なレンズの組立精度からいって、レンズの方が負けてしまって、ローパスフィルターを入れられないような状態になっ ていますけど、画素数を2000万画素くらいにしたとき、最低どのくらいの撮像素子の大きさがあったら2000万画素が生きるんだろうと、前から思っていました。例えば1/2.7インチになっちゃうと、ちょっときついかなと僕は思っているんですけど、その辺のところで、どなたかお答え頂ければ・・・」  

 大曽根(シグマ)「一応、レンズメーカーも兼ねていますので、少しお話しますが、光の原理で言えば、焦点距離が短くなれば、その分、純粋に解像度が上がりますので、フルサイズの2000万画素も、例えば2/3インチの2000万画素も等しく対応できると考えています。スケーリングという概念で、焦点距離が半分になると、解像度は2倍になるという基本的な原理がありますので、対応はできると思っていますけど、先ほどおっしゃられたように、物の精度というものが、ある程度、足を引っ張っぱることになると思います。ただ、この物の精度についても、別に人間が全部組む必要はありませんので、1インチからその上くらいのものであれば、大抵は収められるんじゃないかと思っています。それより小さくなっても、ま、そこそこ行けるというイメージも持っています。ただ、小さいセンサーですと、レンズにお金がかけられないので、結局、ローパスは要らないみたいな、安いレンズになってしまうのが実情だと思います」

 甲田「以前、大雑把な計算をしてみたんですけど、顕微鏡用のレンズくらいの組立精度がないと、単レンズでも、そう簡単に解像度は出なと思いました。それで量産でズームを作るのは難しいんだなと思っていました」

 大曽根(シグマ)「あまりお金をかけられない場合は、あくまでも私のイメージですけど、1インチから上は欲しいと思います。それ以外は本当に、技術の粋を尽して、小さいセンサーに合った小さいレンズを作っていくしかないと思います」

 市川「コンパクトカメラには1/1.7インチとか1/2.7インチとか、そういうサイズから1インチ、さらにはフルサイズまでありますけど、カメラ業界がセンサーサイズの大型化にしのぎを削っているうちに、他業界から出てきたスマホのような小さな撮像素子を使ったカメラにコンパクトカメラの市場を荒らされてしまったような感じがします。小さい撮像素子のコンパクトカメラの将来性はどうなんでしょう。竹下さん(キヤノン)、いかがですか」

 竹下「私どもは、去年、APS-Cのコンパクトカメラも出しましたけど、やっぱり、良い画が撮れるのは大きい方で、スマホとの差も出しやすいわけですけど、コンパクトカメラと言って頂けるサイズをキープしようとすると、撮像素子をあまり大きくするわけにはいきません。各社さん、例えば、50倍ズームのコンパクトカメラを出されていますけど、そういうカメラは撮像素子のインチ数を上げちゃったら、もう馬鹿でかくて、コンパクトカメラとは言ってもらえない領域に行ってしまいますので、コンパクトカメラはやっぱりコンパクトと言ってもらえる程度のなかで、撮像素子とかレンズとかのバランスをとるのが、課題だと思ってます」  

 市川「高倍率ズームのコンパクトカメラを使うようになってから、新しい分野の写真が簡単に撮れるようになったというので、散歩のときはいつも持って歩くという方が沢山いらっしゃいます。ですから、やっぱり、カメラは凄く大事だと思うんですけど、如何でしょう、中島さん(ソニー)」

 中島「フルフレームで600mmとかにすると、とんでもなく大きくなりますけど、これを1インチとか、小さなサイズにしますと、600mm相当にしても、手持ちで狙いを定められるようになります」

 市川「この鳥の写真(スクリーンに投影された作例)は従来ですと、ネイチャーフォトグラファーか、経験を積んだプロのカメラマンしか撮れなかった領域の写真だと思いますけど、最近はアマチュアが気軽に散歩しながらでも、ピッピッと撮れるようになリました。コンパクトカメラが進化したおかげだと思いますけど、何か素晴らしいなと思います。この写真はニコンで撮られたものじゃないですか。村上さん(ニコン)、如何でしょう」

 村上「うちの1インチのカメラで撮ったものだと思います。システムが極端に小さくて、とても持ち歩きやすいカメラなので、うちの社内でも、こういった鳥の写真を撮っている人が結構います。1インチは、やっぱり、持ち歩きやすくて、振り回しやすいと、皆さん、おっしゃいますので、確かに使いやすいインチサイズだと思います」

 市川「この写真(スクリーンに投影された作例)はアマチュアの方が先日お撮りになった皆既月食の写真です。左側の写真はフルサイズの何とか6という一眼レフで撮った写真で、右側は何とか900で撮った写真だと思いますが、アマチュアの方が天体とか、小鳥とか、そういう領域の撮影に興味を持つようになったのは、プロにもアマチュアにも使える良いカメラが出てきたからだと思います。それから、SNSではアマチュアの方がボケ味の綺麗な写真を沢山投稿しています。これは日本だけかと思っていましたら、ドイツとか、その他海外でも同じような傾向が見られます。SNSに綺麗な写真を投稿している人たちは、画像処理でちょっと色をいじっただけだと、おっしゃっていますけど、このCP+でも、SNSで目立つようになってきたボケ味の綺麗な写真を意識したレンズが幾つか出ているような気がします。如何ですか」

 大曽根(シグマ)「うちからも出ています。105mmのF1.4というレンズですけど、ボケマスター(BOKEH-MASTER)という、非常にストライクな名前をつけさせて頂きました。やはり、ボケの大きなレンズが欲しいという方が増えているということです。海外ではボケという概念があまり伝わらなくて、逆に絞って使う方が多かったんですけど、皆さん、ご存知のように、最近、ボケとかボカとか言って、美しいボケを楽しむ方が増えています。ただ、美しいボケを出すには幾つか条件があります。特に私が心がけているのは、ボケていないところの解像度は高くすることと、ボケがレモン型になる口径食をなるべく減らすことです。ただ、今度の105mmはフィルター径も105mmと大きくなっちゃいました」

 市川「焦点距離を長くするのも一つですね。メイヤー(オプティック・ゴルリッツ)のTrioplanみたいに、100mmとか50mmとか」

 大曽根(シグマ)「ただ、意外と知られていないことですけど、焦点距離が長くて、口径が大きくて、ボケが大きいと、ときには殆ど絵にならないことがあります。ですから、マイクロフォーサーズの30mmとか50mmくらいのマクロで撮った方が、ボケがちゃんとした円になって美しいことがあります。なので、ボケは大鑑巨砲主義もOKだし、小さいボケも可愛いし、要は被写体との会話の仕方だと思います」

 市川「自撮りも、最近、流行っていますけど、自撮りがしやすいコンパクトカメラが森さん(パナソニック)のところになかったですか」

 森「4K PHOTOの機能の一つとして、自撮りやセルフィーで一番良いショットが選べる便利なカメラがあります。セルフィーモードは特に女性に人気のある機能なので、一番下のラインナップではメインで訴求していますけど、日本だけでなくて、中国とか東南アジアでも非常によく売れています」  

    市川「そろそろ、ソフトフォーカスレンズなども、新しいバリエーションとして出してもいいような気がしますけど、甲田先生どうですか」

 甲田「もうすでに、柔らかい写真の作例は卵系の雑誌やSNSに沢山載っています。また、収差の大きい古いレンズのボケが綺麗だとか、このレンズは癖玉だから、かえって良いんだとか、オールドレンズの紹介誌も沢山出ています。勿論、オールドレンズを上手に使いこなすのは結構難しいことですけど、昨年はソニーさんから新しいソフトフォーカスのレンズが出ました。なかなか綺麗な描写ができるレンズなので感心しましたけど、やはり随分と口径を稼いで、苦労なさってるように感じました。その辺、如何でしょうか」

 中島(ソニー)「確かに昨年はアポダイゼーションフィルターという、ちょっと特殊なフィルターを搭載したGマスターレンズを発表しました。コニカのアルファ時代からの伝統を活かして作ったレンズですけど、中心部の透明度が高く、周辺部が段々暗くなるというフィルターを搭載していますので、ハッキリとしたボケは出ませんけど、とろけるような感じが出ます」

 市川「ソフトフォーカスは電気的にもつくれますか。片岡さん(オリンパス)、如何ですか」

 片岡「つくれます。アートフィルターのなかにあるファンタジックフォーカスという機能がソフトフォーカスに相当するものですけど、当然、元の画が良くないと、綺麗なソフトフォーカスにはなりませんし、我々自身もボケを電気的につくればいいと思っているわけではありません。弊社はボケが綺麗な1.2のレンズを3本出していますけど、あれは過去に名玉と言われたレンズの収差をちゃんと測定し、どういう収差を出すと、どういうボケになるかということをきちんと検証したうえで作ったものです。一方、電気的なボケは不自然なボケになりますので避けたいわけですけど、ソフトフォーカスは電気的なものでも、ある程度の効果は出せると思っています」

 市川「電気的にピントを合わせたり、ずらしたりすることができるわけですね」  

 片岡「できます。特にソフトフォーカスの場合は全体をなだらかに消していく画像処理ですから、割と簡単にできます。一方、大口径のボケは無理矢理作ろうとすると、本当に解像が高いところと低いところの差が激しいので、不自然な絵になりますけど、ソフトフォーカスの場合はその山が低いので、電子的な補正でも割と綺麗にできるわけです」

 甲田「富士フイルムさんも、確か、アポダイゼーションフィルターを使っていらっしゃいますね」

 上野(富士フイルム)「56mmの1.2で使っています。当社はAPS-Cなので、被写界深度がフルサイズよりも1段強、深くなりますので、大きなボケをつくりたいときは、やはりアポダイゼーションフィルターが必要になります。つまり、ボケのエッジを削ったり、逆にセンターえぐりを入れて周辺の光束を切ったりして滲ませるわけですけど、正直、我々が想定したよりもコストがかかって、値段が高くなりました。ただ、想定よりも凄い数が売れましたので、やっぱりボケに拘りを持っている方が凄く多いのだと思います。特に日本はそうだと思います」

 中島(ソニー)「上野さんがおっしゃいましたように、ボケは日本人の文化に合っているのだと思います。先ほどご説明しましたアポダイゼーションフィルターを搭載したレンズが売れているのは圧倒的に日本ですから」

 市川「海外でボケの意味が理解されるようになったのは、ここ10年くらいだと思います。ですから、それ以前はBOKEと書いて検索しても、説明が出てこなかったわけですけど、最近はBOKEHと書けば出てきます。ところで、ボケと正反対のシャープな写真とか、質感豊かな写真はどうするのかというご意見も頂きたいのですが、如何ですか、中島さん(ソニー)」  

 中島「シャープで質感豊な写真を撮るには解像度の高いイメージセンサーを使うのが基本です。そして、撮るときにブラさないことも必要です。ですから、当然、手振れの補正機能も必要です。それから、質感はピントが合っている部分とボケている部分のコントラストによって生まれるものですが、そのコントラストを滑らかに表現できるセンサーとレンズの最適な組合せも必要です。ただ、画素数があまり増えますと、ノイズが増えて、これまた質感を損ねますので、バランスの良いセルサイズと画素サイズで撮影する必要があると思います」

 市川「もう一つ、最近凄く気になっているのは音を発しないカメラです。演奏会でも普通に撮れるカメラが出てきたわけですけど、それを技術の進歩と言っていいのでしょうか。甲田先生、どうでしょう」

 甲田「うちの学校(日大)には音楽学科がありますので、クラシックの演奏会を撮ってくれという依頼がよくあります。私はもう歳なので撮りませんけど、以前はカメラを布でグルグル巻きにしたり、4×5のカメラを持って行って、レンズシャッターの周りだけグルグルに巻いて撮ったりしていました。そうしないと、クラシックの撮影は許可して貰えないくらい厳しかったわけです。私はα7RⅡを買ったとき、サイレントシャッターなるものが入っていて、とても感動しました。言うまでもなく、音がしないからです。特に、連写のときに音がしないのは良いことだと思います。ただ、シャッターを切った気がしないので、その辺が非常に難しいところだと思います」

 市川「オリンパスさんのカメラも全然音がしないのでビックリしますけど、D850なんかも一眼レフのくせにサイレントモードがありますね。使ってみたら、ちゃんと音がしない。当り前ですけど、要はミラーレスになっちゃうわけですね。如何がですか、村上さん(ニコン)」

 村上「D850は、先ほど紹介して頂いた通り、サイレントモードが入っています。自分で使ってみると、音がしない気持ちの悪さを実感できますけど、ただ、使える領域が増えると思いますので、こういった機能はドンドン入れていくべきだと思います」

 片岡(オリンパス)「サイレントモードを入れたときに一番反応があったのは舞台の写真家協会の方でした。クラシックの演奏会などは基本的にビデオの持込みは可ですけど、カメラの持込みは禁止です。しかし、サイレントモードが入ったカメラなら良いよと言われました。いままで撮れなかったものが撮れるようになったわけです。勿論、写真を撮るときに音がした方が いいのか、しない方がいいのかという話になると、また色々あると思いますけど、少なくとも、写真のフィールドが広がったという意味では価値があると思っています」  

 市川「サイレントモードは確かに素晴らしい技術だと思います。最後に逆回りで小迫さん(リコー)から、こんなカメラが欲しいというお言葉をお願いします」

 小迫「基本的には良いものを作ろうと思っています。いままで、高感度とか、高解像度とか、綺麗なボケとか、写真のクオリティに関するお話が主でしたけど、もう一つ、使い勝手とか操作性を良くするというスタンスも必要だと思います。スマホとカメラの大きな違いはシャッターチャンスを逃さずに撮れるかどうかの違いだと思います。スマホはまだ残念ながらシャッターを押しにくいと思います。お手軽さの方を優先した形になってますので、一眼レフなどのカメラはもっと使いやすくしないといけないと思います」

 市川「次に上野さん(富士フイルム)、お願いします」

 上野「すべて、カメラ任せみたいなカメラは作りたくないと思いますけど、一つだけ、オートで視度調整ができるファインダーは欲しいなと、ちょっと思います。それ以外では、外装にお金をかけた、豪勢感のあるボディのカメラを作りたいという気持ちは凄くあります」

 市川「いわゆるカメラらしいカメラですね」

 上野「そうです。ちゃんと使えるカメラって感じです」

 市川「次に森さん(パナソニック)、お願いします」

 森「私は出身がビデオだというお話をしましたけど、カメラに移ったときに、何が一番大切ですかと訊ねましたら、壊れないことやと言われました。カメラは撮りたいときに必ずシャッターが切れないといけませんので、私はいまも、そう思っています。寒い所、熱い所、ま、落としても壊れないというのは、さすがに言いにくいんですけど、どんな条件下でも必ず動くカメラを目指したいと思っています。あとは、先ほど上野さん(富士フイルム)がインスタ映え程度で満足してたらあかんよと、おっしゃっていましたけど、私もそう思っています。それから、最近、写真を印刷したり、大きく伸したりしたときに感じることですけど、人を感動させるのは解像度だけでなく、色も大事だと思うようになりました」

 市川「次に村上さん(ニコン)、お願いします」

 村上「私はNew FM2という機械式のカメラをずっと担当していましたので、好きなのはやっぱりメカが動くカメラです。ですから、フイルム給送系、ミラー駆動系、シャッターのチャージ系をどういうレイアウトにするかとか、モーターを幾つ使うかとか、こういうことを考えるのが凄く好きだったわけですけど、フイルム給送系がなくなり、次いでミラーがなくなりと、段々、私の仕事がなくなって、寂しい思いをしています(笑)。しかし、ミラーレスにもちゃんと対応していかなきゃと思っています。また、合わせて、ミラー付きのカメラにおいても、ちゃんと空気感を切り取ることができ、常に連れて歩いて貰えるようなカメラの提案もしていきたいと思っていますし、自分でもそういうカメラが欲しいと思っています」

 市川「次に中島さん(ソニー)、お願いします」

 中島「自撮りできるカメラのセッションのときに話したくて、マイクも持って、ジーッと市川さんの顔を見ていたんですけど、スルーされて凄く残念でした(笑)。なぜ、そこで話したかったかと言いますと、私を紹介するときに使って頂いた写真がDSC-F1で自撮りした写真だったからです。元々、DSC-F1はレンズとイメージャーを回転させて、自撮りができるようにしたカメラですけど、フイルム時代は回転なんて発想がありませんでしたから、デジタル時代になったことをデザインで体現しようとしたカメラでもあったわけです。当時、カシオさんのQVデジタルも同じことをおやりになっていましたので、やはりデジタルにかける意気込みが凄かったのだろと思います。当時、自撮りはそれほど注目されなかったんですけど、 VGAのDSC-F1を最新の技術で再現したら、どんなものになるだろうというのは、20年前に担当した一人のエンジニアの夢として持っています。スマートフォンの自撮りは腕が写っちゃいますので、どこかに置いておけば自撮りができるというカメラの方が便利だと思います。タイマーで自動的に連写してくれれば、それが一番便利かもしれません。スマートフォンは回転機構を持っていないので、表と裏にそれぞれにイメージャー持っていますけど、自立はしないので、自立させられるデジタルカメラがもしかしたら一番良い自撮りカメラになるんじゃないかと勝手な想像をしています。今回のお題でいうと、あの時代のDSC-F1というサイバーショットを最新の技術で再び蘇らせたら、というのが私の夢です」

 市川「気づかず申し訳けございませんでした(笑)。じゃあ、大曽根さん(シグマ)、割と時間が押してきましたので、手短にお願いします(笑)」  

   大曽根「皆さんを完全に敵に回しちゃうかもしれませんけど、写真を撮る人間としては、モデルチェンジがあまりなくて、日本で作られているカメラが欲しいというのが、偽らざる本音です。私はカメラのレンズを開発していますので、通常は技術の人たちとばかり話をしていますけど、最近は海外の人とか、販売関係の人と話すことがあります。そうすると、ごく一部ですけど、凄く怖い人たちがいます。何て言うんでしょうか、小豆相場師みたいな感じで、ものの品質はどうでもいい、とにかく、この焦点距離のものを何本くれ、カメラはこれでいいと、そういう人がいらっしゃいますので、日本製のというと極端ですけど、個性があって、つくった人の顔が分る、そんなカメラが、凄く抽象的な話ですけど、もしかしたら『こんなカメラがほしい』というのに当てはまるのではないかと思います」

 市川「じゃあ、竹下さん(キヤノン)、お願いします」

 竹下「カメラの機能はドンドン進んでいますけど、もっと進化して、被写体の認識からシャッターチャンスの認識まで、みんなカメラ任せというカメラができてもいいんじゃないかと思います。今日の話の殆どは自分で撮ることを前提にしていたように思いますけど、私自身も子供が幼稚園とか小学生のときに参加したイベントは、いつも撮影に追われて、イベント自体を楽しめなかったという記憶があります。これは私だけでなく、お子さんを持っている人たちはみんな同じようなことを言っています。ですから、カメラをどこかにポッと置いておけば、あとは全部自動で撮ってくれるというカメラも作れるようになるんじゃないかと思っています」

 市川「監視カメラとか、ロボットの目とか、別の意味でキヤノンさんらしいと思います。じゃあ、最後に片岡さん(オリンパス)お願いします。その前に写真を1枚お見せします。オリンパスのブースにあったカメラ(古いカメラをアート作品に変身させたようなカメラ)ですけど、これは片岡さんが欲しいから作ったんじゃなくて、デザイナーさんが作ったものですか」

 片岡「そうです。写真文化とか、カメラ文化のあるべき姿を自分ならではの形で表現するとこうなるというテーマで、デザイナーが実験的につくったものです。私の夢は『一生持ち歩いてもらえるカメラ』を作ることです。勿論、古いカメラでは撮れないシーンが出てくると思いますけど、でも、このカメラだけはどうしても手放したくないというような、時代が移り変わっても使われ続けるようなカメラを作りたいものだと思いつつ、まだ果たせないで、この仕事を続けています」

 市川「素晴らしいと思います。それでは、甲田先生、最後にお願いします」  

 甲田「今日、リコーのブースを拝見して、久しぶりに凄いなと思いました。新製品のK-1Ⅱの機能を古いK-1のなかにほぼそのまま移植できるという発表があったからです。先ほどお話した長く使えるカメラを作りたいという夢は、デジタル技術の進歩のスピードを考えると、一番難しい夢になるかもしれませんけど、K-1K-1Ⅱに化け、K-1ユーザーがK-1Ⅱに乗り換える必要がないということになれば、K-1も長く使えるカメラの一つと言えるかもしれません」

 市川「確かに、私の周りのK-1ユーザーは改造費5万円は安いと喜んでいました」  

   小迫(リコー)「宣伝して頂いて有り難うございます(笑)」            

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【投稿日(posted date)】2018年6月16日(June 16th 2018)

【投稿者(poster)】エイブイレポート社・avreport's diary・編集長:吉岡伸敏・副編集長:吉岡眞里子(AV REPORT Co.,Ltd.・avreport's diary・Chief Editor:Nobutoshi Yoshioka・Assistan Editor-in-Chief:Mariko Yoshioka)