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日仏両国のカメラショーが共同企画として新人写真家発掘のための写真コンテストを3年前から開いている。このコンテストの受賞者たちは何のために写真を撮っているのだろう。サロンドラフォト2017の会場で開かれた受賞者たちによるトークステージを聴いてきた。

 

  avreport’s diaryの第2号です。第1号では「写真は絶対にアートにならない」といった過激なことを書いたので、倍返しの反撃を覚悟していたが、知名度がないので、目下のところはセーフ。しかし「アートもどきの写真に何億円、何千万円の値段がつくのは異常」という指摘には、やや不満げなご意見も返ってきた。こうだ。「写真のアート市場は、ある意味、カオスで無秩序とも言えますが、ともあれ、やはりグルスキーが一番ですので、若者に限らず、誰しもグルスキーを目指している感じがします」というご意見だ。グルスキーって? 初めて聞く言葉だけど、写真の専門用語かな? すぐにネットで検索して、アンドレアス・グルスキー(Andreas Gursky/1955年1月15日生まれの62歳)というドイツ人写真家の名前だということが分かったが、キャリア数10年の写真業界紙誌記者たちに「グルスキーって、知ってる?」と聞いてみると、誰も知らなかった。要するに、日本のほとんどの写真業界関係者は写真機に興味はあっても、写真には興味がないということだろう。

 ところで、グルスキーだが「List of most expensive photographs(最も値段の高い写真作品のリスト)」に載っている25作品のなかに彼の作品が7点も入っているのだから、みんなの憧れの的になるのは当然だ。その7作品の値段をとりあえず紹介すると。第1位・434万ドル、第6位・335万ドル、第7位・330万ドル、第11位・290万ドル、第14位・251万ドル、第15位・242万ドル、第19位・193万ドル、第23位・163万ドル。7作品全てが億円単位で売れた作品だから、写真は立派なアートだと勘違いする人が出てきても、おかしくないかもしれない。

 ちなみに、この高額写真リストの第2位はRichard Prince(1949年8月6日米国生まれ)の作品(397万ドル)、第3位はCindy Sherman(1954年1月19日米国生まれ)の作品(389万ドル)。この2点の値段も、当然、億円単位だ。  

 では、写真よりはるかに長い歴史を歩いてきた絵画や彫刻の値段はどのくらいするのだろう。当然のことだが、写真の数十倍だ。まず、絵画のベスト3だが、第1位はポール・セザンヌ(Paul Cézanne)のThe Card Players(2億5000万ドル)、第2位はPablo PicassoのLa Rêve(The Dream/1億5500万ドル)、第3位はFrancis BaconのThree Studies of Lucian(1億4240万ドル)と、億円ではなく、百億円単位。だから、写真は格下というより論外。それをアートと呼ぶ人の神経が私には理解できないわけだ。もちろん、写真はコピーが何枚でも可能なので、グルスキーの写真も58枚コピーして売れば、セザンヌに並ぶわけだが、58枚もコピーしたら、商品価値はアッという間に暴落してしまうはずだ。

 次は彫刻の高額作品ベスト3。第1位はAlbert Giacomettiの L'Homme au doigt(1億4280万ドル)、第2位もAlbert Giacomettiの L'Homme qui marche1(1億1460万ドル)、第3位はAmedeo Modigliani のTête(6530万ドル)。絵画には及ばないが、写真と比べると、やはり桁違いだ。

 実は私の娘の一人もアーチストの端くれとして、「Tomotake」というブランドをつけたアートもどきの日用雑貨をつくっているが、「カメラはアートをつくるものではなく、アートを撮るものだ」と常々言っている。彼女も写真はアートでないと思っているわけだ。

 しかし、なぜか、写真をアートだと勘違いしている写真家が多いのも事実だ。このブログの第1号でも紹介したフランスのカメラショー「Le Salon de la Photo」と日本のカメラショー「CP+」の両ショーは、共同企画として、両国の新進写真家の発掘・支援・育成を目的とした写真コンテストを毎年実施して、それぞれのショーの会場で受賞作品の合同展示と受賞作家による合同トークショーを2016年から毎年行っているが、先月開かれたLe Salon de la Photo 2017の会場で行われた合同トークショーでも、フランス人受賞者の一人から写真をアートと勘違いしている発言があって、耳を疑った。  

 このトークショーに参加したのはフランス側の写真コンテスト「Les Zooms 2017」(2010年に創設)の受賞者、Rudy BoyerさんとCéline Jentzschさん、そして日本側の写真コンテスト「The Editors' Photo Award ZOOMS JAPAN 2017」の受賞者、山田憲子さんと片上久也さんの4人だが、フランス人の受賞者、Céline Jentzschさんが何の躊躇もなく、こんな発言をしたので呆れてしまったわけだ。 

 「以前、私は旅行会社で仕事をしていました。パイロットのスケジュールを管理する人事の仕事でしたが、あまり創造力は必要でなく、とにかくスピードが求められる仕事でしたので、やはり創造的、クリエイティブな仕事をしたいと、ずっと思っていました」

 写真の一体どこが創造的でクリエイティブなのだろうか。 なぜ、彼女はそのような勘違いをしてしまったのだろうか。 もちろん、写真がアートであろうが、なかろうが、そんなことを気にする人は現実にはあまりいないかもしれない。カメラメーカーもそんなことは全く気にしていないはずだ。好きなものを自由に撮ってくださいというのが、カメラメーカの基本姿勢だ。ただ、写真をアートだと勘違いするような鈍感な神経の持ち主に人を感動させる写真が撮れるのだろうか。

 言うまでもなく、どんな写真を撮ろうが、撮る人の自由だが、それを図々しく人様に見せていいかとなると、それは全く別の問題だ。特に、撮影意図が分からないアートもどきの写真を見せられたりすると、私としては困惑するしかないが、困ったことに、撮影意図を明確にすべきストリートスナップやドキュメンタリー写真のなかにも、どういう目的で撮ったのか、全く分からないものが沢山あるのはなぜだろう。

 先日、東京都写真美術館ユージン・スミスとウジェーヌ・アジェの写真展を見たが、ガッカリした。なぜなら、撮影意図が分からない写真がほとんどだったからだ。ご存知の通り、ユージン・スミスは写真史上もっとも偉大なドキュメンタリー写真家の一人と言われている写真家だ。また、ウジェーヌ・アジェは死後、近代写真の父と呼ばれるようになった、やはり偉大な写真家だ。だから、二人の写真には見る人に何かを伝えようとする明確な目的があったはずだが、時が経ち、時代を共有する人が少なくなるにつれ、コミュにケーションの手段であったはずの写真が何も語りかけることのない、単なる物や商品に変わってしまうようだ。

 特に呆れたのはユージン・スミスの写真展だ。写真のキャプションがあまりにもお粗末すぎたからだ。例えば、自動車が写っている写真のキャプションは「自動車」、猫が写っている写真は「猫」。本来なら、なぜ自動車を撮ったのか、なぜ猫を撮ったのかというキャプションを入れるべきだろう。東京都写真美術館のキュレーターたちは一体どういうキャリアの持ち主なのか、疑いたくなってしまったくらいだ。つまり、時代背景を知ろうとしないアホが書いたキャプションとしか思えなかったわけだ。

 以下はLe Salon de la Photo 2017の会場で行われたLes Zooms2017とZOOMS JAPAN 2017の受賞者その他による合同トークショーの紹介。受賞者たちは写真を、一体、何のために撮っているのだろ。写真で何を伝えたいのだろう。トークショーの時間が1時間と短かったからなのか、司会者の進行が下手だったからなのか、受賞者たちの言語能力が足りなかったからなのか、全く収穫のないトークショーだった。                                              ★

 司会者「サロンドラフォトは日仏の友好関係を深めるために、8年前からこのような写真のコンクールを開催しています(フランス側は8年前から独自に単独開催、日本側とのコラボ開催は3年前から)。今回、4名の入選者にお集まりいただきました。うち2名様はパブリック賞(ネットによる一般投票)、残りの2名様はプレス賞(日本ではエディター賞/カメラ雑誌の編集長が選考)を受賞なさいました。2年前からはCP+さんが関心を抱いてくださいまして、国際的なコンクールになっています。本日は4名の受賞者と、日本とフランスのジャーナリストもお迎えして、討論を行いたいと思います。まず、審査員長のVincent PEREZ(写真家)さんから、一言、お願いいたします」

 PEREZ審査員長「審査員をさせていただきまして、本当に光栄でございます。様々なアーチストの写真を選ぶのは非常に難しい仕事です。皆様、それぞれ大変素晴らし才能を持っていらっしゃいますので、そこから選ぶというのは、非常に難しい、大変な仕事だったわけですけど、ただ、様々な編集長の方々、プレスの方々と一緒にお仕事をさせていただきまして、本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。今回、4名様の受賞者、そして4名様のジャーナリストをお迎えしております。本当に有り難うございます。皆様は様々な個性を持った写真を撮っておられます。テーマは旅行ですとか、ストリート、景色、そして個人的なアート、様々な分野で写真を撮られていますので、様々なお話をお聞きできると思います」

 司会者「まず、Rudy Boyerさんの作品ですが、この作品はYann Garret(Réponses Photoの編集長)さんが推薦されています。Rudy Boyerさんはストリートの写真を撮ることに特化しています。うしろのスクリーンに写真が出ておりますが、ストリート写真は、現在、どんどん流行ってきていますので、このアーチストにとっても、一つの挑戦だったのではないでしょうか」

 Yann Garret編集長「確かに一つの挑戦でした。Rudyさんの写真は全てのものを一つに統合する力を持っています(エッ?どういうこと?)。アーチストによっては人道的なテーマで写真を撮ったり、形式的なテーマで写真を撮ったりしますけど、Rudyさんの写真は地方というものに力を入れて撮られているように感じます。地方といっても、高級住宅地のニースです。そして、自分が生まれ育った町をテーマに撮っておられます。私は故郷というテーマを取り扱ったRudyさんの写真を見て感動しました。彼の写真には真実性ですとか綺麗な心が反映されていると思います。人の顔の写真を撮ったりするのは、ある意味、アグレッシブな、ちょっとした暴力的なイメージがあるかもしれませんけど、Boyerさんの写真にはそれが一切ないのが特徴です」

 司会者「Boyerさんは、どのような気持ちで写真を撮られていますか。例えば、カメラマンが自分にカメラを向けていると、基本的に、ちょっと意識をしたりしますが、そのような状況に置かれたとき、Boyerさんはどのようにしていらっしゃいますか。影に隠れて写真を撮ったりすることもありますか」

 Boyer「カメラマンが透明人間になるのは不可能ですけど、人は基本的に自分のやっていることに夢中になっていますので、被写体が周囲のことを気にしているという状況はあまりないと思います。ですから、私が写真を撮っているときは、90%、透明人間になっているといっても過言ではありません。私の身長はそんなに高くもなく、低くもないですけど、周りの人たちが私に注意することは、あまりないと思います」

 司会者「次は月刊カメラマンの編集長の坂本直樹さんに、お伺いしたいと思います。今回、片上久也(かたがみひさや)さんの写真を紹介されていますけど、一言、この作品について、お話をしていただけますか」

 坂本編集長「片上さんの作品は写真愛好家の人たちの投票によって、圧倒的多数を得て、一等賞に輝いた作品です。日本でカメラ雑誌7誌の編集長が、みんな、これは一等賞にはならないだろうと思っていた作品だったのですが、一般のコンシューマーはこういった作品を好むようです。僕は雨傘というと、どうしても映画の”シェルブールの雨傘”を思い出してしまいますが、それとは全く対極にあるような、決してお洒落でない、でも非常に真面目に撮っている、こういう写真が読者に讃えられ、一般の写真愛好家にうけるというのは凄くよく理解できます」

 司会者「片上さんにお聞きします。まず、なぜテーマに傘を選ばれたのですか。確かに、日本人はお天気が良いときでも、日傘として傘をさしていて、西洋人は非常に驚きます。そういった傘に注目した理由をお聞かせいただけますでしょうか」

 片上「はじめまして。カタガミヒサヤと申します。普段からスナップ撮影をしていますが、そのなかで、日本らしさとは何かと考えたときに、まず傘が一つ思い浮かんだわけですけど、雨の日の空気とか湿度とかによって、ちょっと日本ぽい、日本画のようなイメージが出るんじゃないかと思って撮っています」

 司会者「Le Monde de la Photoの編集長のVincent Trujilloさんは、Céline Jentzschさんの作品を紹介されています。この作品には2万5000票の投票があったそうですけど、それについて、一言、お願いいたします」

 Vincent Trujillo「Céline さんは、沢山、旅行をされていますけど、モンゴルがとても気に入ったと感じています。Célineさんとお会いしたのは2〜3年前ですけど、彼女と会ったとき、彼女は非常に喜んで旅行の話をしてくれました。そして、写真も見せてくれたことをよく思い出します。旅行写真家というのは非常に難しい仕事だと思います。彼女の作品を見ると真実性が伝わってきますし、また、アーチストとして非常に完成していると思います。彼女はモノクロの写真を撮っていますので、最初に見たときは簡単そうに見えましたけど、非常に難しいだろうなと、いまは感じています」

 司会者「私からもJentzschさんに質問をさせていただきたいと思います。まず、モンゴルには何日滞在されたのですか。それから、モノクロ写真はどのような状況で撮られたのですか」

   Céline Jentzsch「モンゴルに滞在したのは15日間でしたけど、モンゴルは冬の場面が非常に美しいと思います。私がこの写真を撮ったのは2015年3月でしたけど、基本的には寒い時期でした。夏は非常に暖かいのですが、冬は一言でいうと、極限状態といっても過言ではありません。夜になると、マイナス30度、零下35度になったりしましたので、非常に厳しい状況でした。そして、トナカイのいる町まで行くのに車で数日間かかり、宿泊はトナカイを管理している人のところに宿泊するといったことでしたので、確かに大変な状況でした。 なぜモノクロが多くなったのかということですけど、私が写真を撮るときに気にしているのは、とにかく見たものを忠実に再現することです。今回、この冬の旅を撮影するにあたって、つましさですとか、清潔さ、寒さというものを表現したいという思いから、やはり、モノクロームで写したいと思いました」

 司会者「次に安藤菜穂子(PHaT PHOTO編集長)さんに伺いたいと思います。今回、プレス賞(CP+ではエディター賞)を受賞された山田憲子さんの写真を紹介していただきましたけど、一言いただけますか」

 安藤編集長「山田さんはまだ24歳の、大学を卒業して数年しか経っていない、とても若い写真家です。作品を最初に見たとき、完全にアートとしての作品の美しさに、とても惹かれました。その次に思ったことは、まるで海の底に咲いている草花や人のように、細かい気泡のようなものが無数に出ているので、まずこれが何を表現しているのだろうかということに、とても興味が湧きました。のちに彼女にこの作品について尋ねたところ、この作品は彼女が撮影当時にあまり関係がうまくいっていなかった母親のことを思い浮かべながらつくった作品だということを聞きました。この無数の穴は一つ一つ手で開けたものですが、プリントの下から光を当てることによって浮かび上がる小さい光のように見える手法をとっています。とても個人的な彼女の悩みや母親との関係を、とても斬新な方法で、こういったアート作品に表現するところにとても魅力を感じて、今回、エディター賞に選びました」

 司会者「山田憲子さんにお聞きしたいのですが、まず、どのようなことからプリントに穴を開けるというアイデアが浮かんだのですか。また、この穴が何を象徴しているのかにも興味があります」

 山田「私は志賀理江子さんという写真家がビジュアル的に凄く好きなので、どのような手法で作品を作っていらっしゃるのか調べてみました。そして、その方法の一つに穴を開けるというのがあったので、私も試してみました。それがきっかけです。この穴の光が表しているのは、単純に涙とか、呼吸とか、そういうものじゃなくて、人の命みたいなものが外気に発せられていくみたいなイメージです。それは母が泣いているときに見えたものですが、命がすり減っていくように見えた気がして、それを表しています」

 司会者「Yann Garret編集長に片上さんに対する質問をお願いしたいと思います」

 Yann Garret編集長「質問というよりも、ちょっとした私の個人的な意見ですけど、片上さんの写真を見ると、非常に感動します。写真から出てくる光ですとか、傘のモチーフというのは、気候だけではなく、時間を表しているようにも思います。それについては、どのようにお考えでしょうか」

 片上「質問が凄く難しいです。時間とかっていうのは、深く考えていません。傘が撮りたいわけではなくて、そこにある風景というか、そこにたまたま傘があるというのが、僕の撮り方の基本です」  司会者「広島県出身ということですけど、写真は広島を中心に撮られているのですか。もしくは日本全国で撮影されているのですか」  

 片上「基本は地元、広島ですけど、数枚は近県だったと思います」

 司会者「坂本編集長からCéline Jentzschさんの写真に対して何かコメントはありませんか」

 坂本「セリーヌにしろ、ルディーにしろ、凄く素敵な作品に出会えました。生のプリントを眼の前で見ることができて、12時間かけて東京から来た甲斐がありました。僕もセリーヌと同じように、外国を旅するのが大好きで、2週間前、30年ぶりにケニアのマサイ村にいました。そこで何が衝撃だったかというと、マサイ族の青年とメールアドレスの交換をしたことです。それで、セリーヌにお聞きしたいのですが、モンゴル、あるいはモンゴル以外の国でもいいです。凄く、衝撃的だったこと、インプレッシブだった出来事、思い出、そういったもの、何かございますか」

 Céline Jentzsch「私が感動したというか、驚いたことは、モンゴルの人たちが自然と一体となって生活していたことです。彼らが一体となっている自然との関係に非常に深く感動しました。我々、一般の人には考えられないことですけど、寒さ、極寒というのは彼らの日常となっています。そういった状況に順応しようとしている、いや、すでに順応しているという姿に非常に感動しました。そのような生活を改善しようとは考えないで、そのような生活を営んでいることに驚いています。モンゴルにおいては、冬と夏の温度差が非常に激しくて、先ほどの繰り返しになりますけど、冬ですとマイナス30度、マイナス40度、ときにはマイナス50度になりますし、また夏ですと非常に暑くなりまして、30度以上になることも度々あります。彼らの日常は年間を通してそのような厳しさのなかにあるということに非常に驚いております。彼らはある意味、放浪の旅をしていると言っても過言ではないわけですけど、彼らの姿を見ると、人間と自然が完全に融合しているというふうに感じます」

 坂本編集長「モンゴルも日本人も同じ人種、モンゴリアンですが、日本にも北海道という冬はとても寒くなる大地があります。次は是非、冬の北海道に来て、スキーをするのではなく、動物とか大地の撮影をしていただきたいと思います」

 Céline Jentzsch「有り難うございます。日本の北海道に行くのは私の一つの夢でもありますし、北海道の冬についても度々話を伺っています。北海道というと野生的なイメージもあり、ピュアなイメージもありますので、必ず日本の北海道を訪問したいと思っています。実際に来年2月に日本を訪問する予定ですので、時間をとって、是非、北海道へ行きたいと思っています」

 司会者「今回のLes ZOOMS 2017に入選した2名のフランス人が来年2月に日本を訪問する予定です。次にVincent Trojilloさんから山田憲子に一言質問をしていただければと思います」

 Vincent Trojillo編集長 「今回の写真は、お母様との非常に複雑な関係を反映しているということですが、この写真はお母様との関係の改善に役立ちましたか」

 山田「この作品によって、直接的にそうはならなかったのですが、自分を改善しなければならないという気持ちがありましたので、本当にそういうふうに動いていくキッカケにはなりました」

 司会者「今度は安藤編集長からRudy Boyerさんにご質問があればお願いします」

 安藤編集長「Rudy Boyerさんの作品は一目見て、とても素敵な、個人的に好きな作品だと思いました。構図や光と影のコントラストがとても魅力的だと思います。2つお伺いしたいのですが、撮影のときに何かご自身に課しているルールみたいなものはありますか。それと、もし影響を受けた写真家の方がいらっしゃいましたら教えて下さい」

 Rudy Boyer「有り難うございます。ルールは基本的にはありません。ただ、私が住んでいるニースは非常に太陽が多くて、非常にお天気も良くて、光が常にあるという場所です。また、ニースには小さい道が沢山ありまして、そういった小道がこの太陽の光によって、陰影をもたらせているように思います。光は私の生活の一部になっていますので、私が実際に生活している、その一部を写真に反映させたいと思っています。本当に単純に自分の見たものを撮影したいと思っています。その写真のなかに人間が含まれれば、なお良いとも考えています。従って、ルールは関係ないということです。 2点目のご質問ですけど、影響を受けたアーチストは沢山あって、数え切れません。200人くらいいますけれども、その数名を挙げると、Alex Webbさんであったり、××さんであったり、○○さんであったり、きりがありません」

 司会者「二人のフランス人の写真家にお聞きします。お二人とも、最初は普通のお仕事を持っていらっしゃいましたね。そのあとアーチストに転進されたわけですけど、どのようにしてお仕事を変えられたのかをお聞かせ願えればと思います」 

 Céline Jentzsch「サラリーマンからプロのカメラマンへは徐々に変えていきました。完全にプロになるのには1〜2年かかりました。以前、私は旅行会社でパイロットのスケジュールを管理する人事の仕事をしていました。非常に厳しい仕事でしたが、あまり創造力は必要でなく、とにかくスピードが求められる仕事でしたので、やはり創造的な、クリエイティブな仕事をしたいと、ずっと思っていました。私は昔、絵画を教えていたこともありますし、アクリルにもずっと携わっていました。ですから、ずっとアートには何らかの形で携わっていたわけですけど、ただ、自分の気持ちとしては、新しいことにチャレンジしたい、本当に自分の力を発揮していきたいという思いがありましたので、プロのカメラマンになることを決意しました。それまでには5年から10年という時間が必要でした」

 司会者「今度はRudy Boyerさんにお聞きします。今回の受賞をきっかけに、プロになることを考えていらっしゃいますか。また、今後、何を目指されるのか、一言、聞かせていただければと思います」

 Rudy Boyer「今後、プロとして仕事をしていくのかどうかは難しい質問です。私は現在、コンクリート分析研究所で仕事をしていますので、写真はあくまでも趣味の一つです。音楽も大好きで、音楽と写真は私にとっては趣味です。このストリートの写真を撮るのは、心から大好きなことで、ずっと続けていきたいと思いますけど、テーマを決めて、プロのカメラマンとしてやっていけるかというと、今の段階では、正直、そのようなことは考えていません。今後、条件とか環境が変われば、それなりに考えるかもしれませんけれども、現在は家族を持っていますし、子供が3人いますので、すぐには難しいと考えています」

 司会者「片上さんに質問ですけど、今回、パリにいらして、何か感じたことはありますでしょうか。例えば、フランスの傘というテーマで写真を撮りたくなったとか、パリに来て感じられたこと、ちょっとお聞かせいただければと思います」

 片上「まだ、パリに来て2日目ですけど、パリは今回で2回目です。明日、ちょっと天気が悪いみたいなので、本当にフランス人は傘をささないのか、ちょっと確認してみたいなと思います。パリにはあと暫くいますけど、傘の写真は引き続き、継続して続けていきたいと思っています。フランスで感じたことは日本に帰ってから出していきたいと思っています」     司会者「山田憲子さんへの質問ですけど、今回、フランスに滞在して、何か今後の作品に繋がるようなインスピレーションは得られましたか。また、何か新しいアイデアがひらめきましたか」

 山田「まだ、この会場にしか来ていませんので、明日、明後日、色んなところを見て回る予定です。私にとっては初めての海外なので、最初は凄く怖かったんですけど、写真展を見るだけで凄く何かアクティブになれましたので、明日、明後日が凄く楽しみです」

 司会「4名の受賞者の方、そしてジャーナリストの方、本日、この場にお越しいただきまして本当に有り難うございました。皆様のお声を一人一人お聞かせいただきまして、本当に光栄に思っています。誠におめでとうございます。本日は本当に有難うございました」(AVレポート社 代表取締役 吉岡伸敏 ・2017年12月29日記)

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新人写真家発掘のための写真コンテストの受賞者のトークイベントはサロンドラフォト2017の初日の午後4時から5時半まで行われた。

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サロンドラフォトのトークイベントには写真コンテストの受賞者だけでなく、審査にあたったカメラ雑誌の編集長たちも参加した。日本からは月刊カメラマンの坂本編集長とPHaT PHOTOの安藤編集長が参加。

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ニースのストリート写真で受賞したRudy Boyerさん(33歳)

f:id:avreport:20171229145830j:plainRudy Boyerさんの作品

f:id:avreport:20171229145938j:plain極寒のモンゴルの写真で受賞したCéline Jentzschさん

f:id:avreport:20171229150329j:plainCéline Jentzschさんの作品

f:id:avreport:20171229150429j:plainZOOMS JAPAN 2017でパブリック賞を受賞した片上久也さん

f:id:avreport:20171229150759j:plain片上久也さんは傘を素材にして日本らしさを撮った

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ZOOMS JAPAN 2017でエディター賞を受賞した山田憲子さん

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山田憲子さんはプリントに開けた無数の細かい穴に光を当て、命が消えていく様子を視覚化した

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日仏4名の受賞者の作品を並べた合同展示場は看板のサイズが小さいうえに吊り下げられた位置も高すぎて全然目立たず、ちょっと手抜き感があった

f:id:avreport:20171229152002j:plain6年前のLes Zooms 2011の受賞作品展示会場

f:id:avreport:20171229163032j:plain受賞者のトークイベント会場は空席ばかり。ほとんどが関係者だろう。

f:id:avreport:20171229163320j:plain上の写真と同じ会場だが、空席が全くない。チベットの写真で有名な写真家、オリヴィエ・フェルミさんのトークステージだが、このすぐ後の時間にセバスチャン・サルガドのステージがあったせいか、フェルミさんのトークが終わっても誰も席を立たなかった。それどころか、サルガドを一目でも見ようと、外から会場を覗き込む人も沢山いた。